BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――涙!

 ヒーローの帰還を待ち構える毒島誠と土屋智則。桐生順平のエンジン吊りに出てきていた黒井達矢も毒島らと距離を詰める。ピットを目前にしてスピードを緩めた白カポックに向かって、毒島らは諸手を掲げ、拍手を送った。その瞬間、ボートの上で深々と頭を下げた椎名豊。そのまましばらく頭を下げ続け、数秒後にゆっくりと頭を上げた。まさに、万感こもった先輩たちへの感謝。やってのけた。勲章をつかみとった。その達成感や充実感もまとめて伝わってくるような、そんなお辞儀の仕方なのだった。

 毒島に肩を叩かれ、土屋に祝福の声をかけられ、ヘルメットをとった椎名の顔は明らかに泣き顔! すぐにインタビューカメラの前に立った椎名は、毅然と答えようとしていたが、鼻をすするようなところもあった。まさに涙の初優勝!

 さらにだ。ウィニングランで多くのファンからの「おめでとう!」を浴びて帰ってきた椎名は、レスキューを降りるともはや号泣! そこでふたたび、毒島や土屋、あるいは他県の先輩たちにも拍手とおめでとうの言葉をかけられると、椎名はお礼を告げながらも、完全に言葉に詰まっていた。

 椎名とはSGのピットで会うのがこれが3回目である。ヤングダービーで会ったことはあったが、正直それほど絡みはなかった。ただ、その数少ない接触や、ピットでの様子から、もっと淡々と、飄々としているようなタイプと僕は思い込んでいた。派手に喜びをあらわにするかどうかは、勝ってみないとわからないところはあったが、いやはや、もう、まさかこんなにもウェットな一面を見せるとは! 椎名の意外な勝者の姿を、僕は少し驚きながら見ることになったのだ。

 表彰式をご覧になった方なら、そこでも声を詰まらせるシーンがあったのを目撃しただろう。先ごろ引退した山崎智也さんの名前が、MCの千葉さんから出たときだ。同じグループであり、多くの教示を受けてきた偉大なる先輩。引退から2カ月半ほどしか経っていないこのときにSGを制覇できたことは、胸に迫るものがあって当然だった。椎名がけっこう涙もろいと知ったあとでは、そこで涙ぐむのは当然とも思えた。
 ともかく、だ。まだ3節目のSGで、予選トップ通過などの重圧もあっただろうに、堂々たる逃げ切りを見せた椎名のタイトル獲得は、見事の一語である。その涙とともに、夏の尼崎の思い出は、深く椎名の心に刻まれることだろう。

 敗者に関しては、ピットに上がった直後はほぼ一様に、顔をしかめていたのが印象的であった。猛暑のなかの熱戦ということもあったのか、あるいは強烈パワーで堂々と逃げた椎名に及ばなかったことの脱力感か、もちろん敗れた悔しさは当然ありつつ、桐生順平も、太田和美も、丸岡正典も、片岡雅裕も、難しい顔をしていたのである。

 で、稲田浩二については、やはり飄々とした様子。準Vというのは、ある種もっとも悔しい着順でもあると思うのだが、そういった気配はレース直後には見えない。ようするに、いつも通りのレース後だ。ただ、昨日の準優1着後の会見で「めっちゃ嬉しい」と言ったように、そのポーカーフェイスの裏には「めっちゃ悔しい」があるのだろうと推測する次第だ。なにしろ、地元尼崎である。今夜はその悔しさを噛みしめる時間を、淡々とであっても過ごすことになるのかもしれない。

 さあ、SG初優勝だから、もちろん水神祭! すべての行事が終わってピットに戻ると、あれれ、残っているのは群馬勢のみ。ということで、検査員さんも参加するという、珍しい水神祭となっている。

 豪快に投げられた椎名に続いて、土屋もドボン。そして……あら、ブスちゃんは行かないの? ひとり陸に残った毒島は、カメラマンの要求に応えて水中でガッツポーズをとる椎名に対して、水をかけまくっていたのでありました(笑)。でも、それでもやっぱり椎名は嬉しそう。ここでようやく、大きな大きな笑顔を満開にしておりました。

 椎名豊、おめでとう! 40代の選手が強さを見せまくっているという流れのなか、113期生のSG制覇は一気に流れをかき回すものとなった。グランプリでも大暴れを頼むぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)