BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――万感の逃げ

 11Rでピット離れによるコースの入れ替わりはあったものの、前付けらしい前付けはなく、穏やかな3対3の進入となったトライアル2nd初戦。勝ったのはともに1号艇だったが、それぞれに「単なるイン逃げ勝ち」ではないような、そんな風情のレース後なのであった。
●11R

f:id:boatrace-g-report:20211216220722j:plain

 平本真之がイン逃げ快勝。トライアル初戦の1着が大きいのはもちろんわかっているが、リフトに戻ってきてガッツポーズを見せたのが少々意外ではあった。つまりそれだけ、トライアル初戦1号艇を獲り切ったことに重要な意味があるということだ。
 しかしながら、ピットにあがって仲間に囲まれた平本は、歓喜というよりは安堵を強く感じているように見えたのだった。1stをクリアした選手が見せたのと同質の、ホッとした表情。11月までの戦いの中、自力で手にした初戦1号艇。2戦目3戦目は枠番抽選という“不条理”がつきまとう戦いで、ここは絶対に落とせないのだという決意。それと同時に襲い掛かってくる不安。そうしたものをすべて振り切った、というのがこの勝利の持つ意味だったということだろうか。
 それでも、喜びはジワジワと高まり、また明日以降のことを思えば絶好のスタートを切れたのだという実感も生じてきて、その後の平本はなんともゴキゲンなのだった。12R観戦のために水面際に向かう際、こちらの姿を見つけるとサムズアップ! 親指を立てた右手を高々とあげて見せた。明らかにテンションが高かった証拠だ。

f:id:boatrace-g-report:20211216220803j:plain

 2着は丸野一樹。バック5番手から2マークで2番手争いに浮上し、白井英治、濱野谷憲吾という歴戦の強者を捌き切った。いやはや、初出場とは思えない冷静な立ち回りだった。そして、素晴らしい旋回でもあった。「よう出とってましたねぇ~」なんて丸野は言うが、もちろん足の仕上がりも良かったとはいえ、それだけであの走りにはならない。まだ1走終わっただけとはいえ、明日以降に期待が持てる、丸野のたたずまいである。

f:id:boatrace-g-report:20211216220911j:plain

 痛恨の6着は菊地孝平。さすがに控室へと引き上げていく表情はカタい。着替えを終えた菊地は、気配を消すようにして足早に整備室へ。さらにペラ室へと飛び込んで、“プロペラとの反省会”をじっくりと行なっているのだった。優出争いでは出遅れた格好だが、その聡明さと覚悟の携え方を思えば、ここからが怖いような気がする。今日の敗因としっかり向き合ったのだから、それをふまえて明日はあらゆる策を講じてくるはずだ。

●12R

f:id:boatrace-g-report:20211216220959j:plain

 峰竜太が逃げ切り圧勝。影をも踏ませぬ逃走劇だった。リフトに戻ってきた峰は、その数十分前の平本のそれを上回る、ド派手なガッツポーズ。まるで優勝したかの振る舞いに、少し訝しく感じたりもしたものだ。
 つまり、この初戦に懸ける思いは単なるトライアル初戦というレベルにとどまらないものだったということだ。勝利者インタビューのカメラの前に立った峰は、万感こもった安堵の笑顔を見せている。いや、マジで泣くかと思った。トライアル初戦の1着なのに。ようするにこういうことだろう。高まっていく一方の自分への期待をしかと受け止め、絶対に応えるのだと決意し、やはりそこには不安もつきまといながら、それを振り払うように徹底的に調整をして、絶対に勝つのだと己に言い聞かせて臨んだ初戦。そこまで峰は、2nd初戦12Rに自分を追い詰めて臨んだわけだ。

f:id:boatrace-g-report:20211216221034j:plain

 このテンションを維持したまま最後まで突っ走ったら。峰はきっとヘトヘトに疲れるだろうが、それをやり切ってまた頂点に辿り着くのではないかと思えてしまうのである。この段階でそう感じさせられるほど、今日の勝利は圧倒的だった。それはレースぶりもそうだが、何より峰の覚悟の部分にその真髄がある。

f:id:boatrace-g-report:20211216221107j:plain

 毒島誠は4着。今日もギリペラで臨んだ一戦で、ニードル調整もとことんやり尽くすなど、レース前にはその強い執念を感じさせた。しかし、結果的にそれらは実らず。12R終了後は展示がないから、すぐにリプレイが対岸のビジョンに映し出される。毒島は、他の選手たちがビジョンに見入るなか、真っ先に控室へと速足で向かっている。12Rが終われば、ペラの点検など調整作業はもうできないので、そのための速足ではなかったと思う。穿った見方だが、多くは己に向けての敗れた憤りがそうさせたのではいかと思ってしまった。つまり、それは強い悔恨が宿っていたというわけだ。

●枠番抽選

f:id:boatrace-g-report:20211216221207j:plain

 感染対策ということで、2ndの枠番抽選も会場への立入はできない。これはトライアル組の選手も同様なのか、西山貴浩と中島孝平は外から様子を覗き込んでいたのだった。「仁志、(1号艇を)引け!」「おっ、瓜生さんが1! これはチャンス!」などと純粋に楽しんでもいたが、「あぁ……俺もこれやりたかったなあ」という西山の呟きはなかなかに切ないのだった。来年もグランプリに出場して、やれ!
 で、西山の期待に応えて篠崎仁志が1号艇を引いた。ガッツポーズ! 今日の大敗を巻き返す絶好のチャンスを手に入れて、思わずアクションが出た。峰竜太は5号艇で、悲しんだのは本人より愛弟子の上野真之介。「6じゃなきゃいいんだ」と言ったのは峰本人で、まるで峰が上野を慰めているようだった(笑)。

●シリーズ

f:id:boatrace-g-report:20211216221239j:plain

 10Rのシリーズ復活戦を勝ったのは西山貴浩。勝利者インタビューを間近で見ていたのだが(発言はモーター音などもあってほとんど聞こえていない)、なんか声の張りとかギャグの冴えとか、ちょっと弱く見えたのは気のせい? 枠番抽選での発言もそうだが、1st敗退をまだ引きずっているのだろうか。昨日は1時間しか寝てないって言ってたし。3日目を終えてシリーズの予選トップ。こうなったらSG初優勝をシリーズで狙え!

f:id:boatrace-g-report:20211216221320j:plain

 10R後、新田雄史が本体を割っている。復活戦は2着だが、まだ納得いかない部分があるのだろう。新田も2ndに進めなかった悔しさをまだ抱えているかもしれないが、しかし前を向いて奮闘している。例年1stからシリーズに回った選手はなかなか苦戦気味で、一昨年の馬場貴也だけが優勝を手にしているのだが、その馬場も含めて、今年は1st組から優勝が出るかも!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)