BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――痛い……

 9R後、着替えを終えてピットに現われた平本真之と上野真之介。上野が平本に「すみませんでした」と力なく言った。2マーク、逆転を狙った上野が狭いところを脱け出そうとしたことで、ややごちゃついた展開になり、平本がここで後退している。平本は4着以上が欲しかったところで、結果、勝負駆けに失敗することにもなっている。その場面について、上野が詫びたシーンだろう。

 それでも平本は、小さく首を振って、上野を気遣うような素振り。「真之介が(エンジン)出てたんだよ」と返している。上野は「そうなんです。今、すごく良かったんです」。そしてもういちど、平本に詫びた。ともに予選突破を逃し、痛恨の一戦だった。しかしレースが終わればノーサイドだ。二人は明日のため、プロペラ調整室に向かった。

 10Rの痛恨は森高一真。3着以上が欲しいところで、しかしスタートで踏み込むことができなかった。5コースから伸びて握った前本泰和に抵抗すべく握り返しはしたが、前本にその上を行かれて万事休す。その後も必死に追い上げたものの、5着で予選落ちが確定的となった。

 1着勝負だった西山貴浩は、3着が精一杯。むろん悔し気な表情でピットにあがってきたが、その後は森高のもとに歩み寄って声をかけている。西山の言葉にうなずきながらも、しばし無言だった森高は、カポック脱ぎ場目前まで歩いてきたところで、絞り出すように「ハマってしもた……」。ツケマイのようなかたちで森高を交わしていった前本の引き波にはまったことが敗退を決定的にしただけに、そのことを口にするのが精一杯だったのだろう。装備をほどき、控室へと消えていくまで、ほとんど視線は下に向けられていた。おおいに悔いを残す予選最終走だったのだ。

 11R、無事故完走で準優当確だった大上卓人が2マークで転覆。いや、無事故完走どころか、このレースの結果によっては準優好枠も手にできていたわけで、あまりにも手痛い事故だったと言える。幸いにも、レスキューを自力で降りて、しっかりと歩いて控室へと向かっていた大上。しかし、当然ながら、足取りは重く、肩は落ち、沈痛な顔つきであった。
 その2マーク、大上は丸野一樹と微妙に接触、そのままターンマークに追突するようなかたちで転覆している。これが転覆の原因と判断され、丸野は不良航法、大上は選手責任外で、この時点で14位に残った。無事故完走とはいかなかったが、準優進出を決めたのだ。

 同期同士の交錯が、この痛恨時の端緒にあったわけだが、やはり丸野の様子は痛々しいものがあり、顔が完全に引きつっていて、起こった事態への後悔が感じられた。ただし、カポック脱ぎ場で顔を合わせたふたりは、ともに右手を掲げ、目を合わせて2度ほどうなずき合っている。当たり前だが禍根などなく、二人の絆のなかで声を掛け合ったというわけだ。

 12R、1着勝負だった原田幸哉は、同期・瓜生正義との3番手争いにも敗れて4着。6コースから椎名豊が伸びてまくりを放ち、桐生順平がインからこれに合わせたことで、差し場も生まれるかと思われたが、桐生がしっかりと逃げ切って、原田の予選突破への道は険しくなったと言える。12R終了後はすぐに対岸のビジョンがリプレイを映し出すので、これに見入る選手は多いが、原田もまたその一人で、立ち止まってビジョンを見つめていた。1マークもそうだが、2マーク、2周1マークとリプレイが進んでもビジョンから目を離さず、それぞれのコーナーでの自身の走りを反芻しているようであった。もちろん予選落ちは悔しいが、それぞれのターンにも反省材料はある。それをしっかりと見つめているようにも見えた。

 このレースは、椎名vs瓜生のトップ争いも注目された。レース前の段階で2位の瓜生としては何よりもまず、椎名に先着しておきたいところだったが、その椎名とまさに2番手争いとなり、椎名に先んじられている。レース後は、原田に声をかけて「行けると思ったけど……」と、どの場面を指しているかはよくわからなかったが、とにかく悔やんだように眉間にシワを寄せてみせている。
 結果、2着に入った椎名が予選トップ通過! SG初制覇への大きなチャンスを手に入れることとなった。しかしながら、レース後はその高揚感は特に見えず。他の選手が椎名に声をかけるような場面も見受けられなかった。12Rの結果次第ではトップ通過の可能性があった毒島誠がすでに帰宿していたようで、その場にいなかったこともまた大きな動きがなかった一因だろう。毒島がいれば、きっと何だかんだ後輩をイジったりしただろうから。何はともあれ、まずは準優が大きな勝負となる。明日の椎名の様子が見ものである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)