BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――波乱、波乱、そして……

●10R

 準優一発目から大波乱だ! 混戦となった1マーク、突き抜けたのは丸岡正典!「自分でもああなるとは思わなかった」という展開をズバリ我がものにした。ピットでは「マルちゃん!」という声が響いたが、よく考えたらそれは自分の声だった。電撃的なまくり差し炸裂に、つい声を出してしまったのだ。SG優出は18年7月のオーシャン以来。1号艇で毒島誠にまくられたアレだ。「苦い思い出ばかりのオーシャン」と丸岡が言ったので、そうか、鳴門でも1号艇で石野貴之に負けたことがあったか、と思い出した。過去の敗戦はともかく、久々のSG優出に丸岡の目は細くなりっぱなしであった。

 2着は片岡雅裕。ピットに上がるなり「間に合ってよかったな」と森高一真にからかわれていた。そう、前検日に岡山で反対の新幹線に乗ってしまい、あわや前検遅参という事態になりかけたマー君なのである。なんとか間に合ってオーシャン参戦、そして優出とはツイてる! 片岡も18年11月のチャレンジカップ以来のSG優出。会見では何とも朴訥な感じで「優勝したい」と言った。あまりに朴訥すぎて盛り上がりに欠ける受け答えになってしまい、「ぼんやりしてるようですけど、真剣に獲りたいです」と付け加えて、照れ臭そうに笑った。

 4カドから攻めた片岡を制するかのようにまくり差しを放った篠崎仁志は、ターンマークに接触、3着が精一杯だった。レース後は唇を噛みしめ続けており、出血してしまうのではと心配になったほどだ。また、スタートは決めたものの展開なかった菊地孝平は、片岡を祝福していたが、まったく目が笑っていなかった。ひとまず称えてはみたものの、心ここにあらずといった雰囲気だ。

 そして1号艇で飛んでしまった毒島誠は、まるで悔しさを押し隠すかのように、表情をほとんど変えることなく、控室へと消えていった。その淡々と表現してもおかしくないレース後の様子が、かえって毒島の感じている屈辱をあらわしているようにも思えた。きっと控室で溜め息をついている。そうとしか思えなかった。

●11R

 またもや大波乱! ここはまず、3カドに引いた徳増秀樹が勇み足で散った。勝負を懸けての準優における3カドだけに、責めにくいところではあるが、SGから離れなければならないことを思えばあまりに痛恨である。神妙な表情で引き上げてきた徳増の様子はやはり痛々しい。対戦相手全員に深々と頭を下げる姿もまた……。

 徳増Fとはいえ、決まり手は恵まれではない! 徳増の攻めに乗ってまくり差した稲田浩二! 地元勢が見事なレースぶりで優出を果たしたのだ。出迎えた魚谷智之はニッコニコ。稲田の肩を軽くポンと叩いた。ただ、この人のレース直後というのは本当に感情が読みにくい。魚谷の祝福に笑みを浮かべたかもしれないが、それは見ることができず、ヘルメットを脱いでみれば普通の表情。地元SG優出でも、感情をあらわにすることはないのである。で、会見の第一声は「めっちゃ嬉しいです」。そうでしたか(笑)。こうなったら、地元でSG初制覇を果たしたらレース後にどうなるのかを見てみたくなったなあ。

 2着は太田和美だ。愛弟子の丸岡正典に出迎えられると、その顔はみるみる柔和になって、微笑が浮かぶのだった。先に丸岡が優出を決めており、「ちょっと気合が入った」とのこと。2マークは3艇での2番手争いを外マイで制したのは、まさにその思いが乗り移ったかのような豪快さだった。ちなみに、今日は足がかなり良化していたとのこと。「椎名くんとも変わらなかった」とのことで、さすがの仕上げと言うしかない。

 惜しかったのは磯部誠だ。バックでは2番手の内を走っており、有利な態勢だった。そこで瓜生正義が先マイをはかり、それを行かせて差している間に、太田が全速で前に出たのだ。エンジン吊りが終わると、苦笑いとともに太田に歩み寄ってレースを振り返り合い、太田に「瓜生が来てたからな」と慰められて、さらに苦笑いが深くなったのだった。SG初優出はまたも持ち越し。また悔恨を積み重ねたことが、さらに磯部を強くするのだと信じたい。

●12R

 結果的には順当に収まった準優ラストだが、いやーーーーーー、惜しかった! 平山智加、あと一歩で優出を逃す……。2マークで平山が2番手にあがった瞬間、ピットは完全に平山を応援する空気に包まれていた。そして、3周1マークで逆転されたとき、ピットには溜息が充満していた。僕も思わずしゃがみ込んでしまった。3周2マークを回った頃に、仲間たちはエンジン吊りのためボートリフトへと集まりだす。「いや~、乗らせたかったねえ~」という菊地孝平の声に、皆が納得の表情でうなずき返していた。選手たちも平山にエールを送っていたのだ。

 大きな魚を逃してしまった平山だが、レース後は総じて、明るさを保っていた。多くの選手が平山に労いの声をかけ、支部の先輩である森高一真は対岸のビジョンに見入る平山に寄り添って、アドバイスを送るように話しかけた。そうしたとき、平山は笑顔で向き合い、時に声をあげて笑うようなところもあった。ただ、カポック脱ぎ場で一人、装備を解いていくにつれ、どんどんと真顔になっていった。このチャンスを掴み切れなかったことを悔やむ様子が秒を重ねるごとに強くなっていったのだ。
 5人目にはなれなかったが、いつでも5人目になれるだけの可能性をもっていることは証明できた。我々はその日を待つだけだし、平山はその日を迎えるために牙を研ぎ続けることだろう。

 平山の希望を打ち砕いたのは桐生順平だ。1マーク回って5番手あたりとなっていながら、2番手に追い上げてきたのはまさに真骨頂。さすがと言うしかない。なにしろ尼崎はSG初優勝の舞台。本人も「相性がいい」と認めている。今日の走りを見ていれば、優勝戦は外枠でも侮れない存在だろう。

 そして、予選トップで通過した椎名豊がきっちり逃げ切り! 準優波乱の流れを食い止めると同時に、この緊張感が高まるなかで見事に優勝戦1号艇を手にした。そう、椎名は会見で「緊張した」とハッキリ言った。「珍しく、待機行動の間もドキドキしていた」とも吐露している。明日はさらなる緊張が襲ってくる可能性もあるが、今日、その緊張感を隠そうとせずに言葉にしたのは悪くないと思う。緊張から逃れようとすればするほど、それは雪崩を打って襲い掛かってくるものだからだ。引退した支部の先輩・山崎智也は「優勝戦1号艇のプレッシャーを楽しむ」と常々口にしていた。そのココロは「負けたらがっつり落ち込めばいい」という、腹のくくり方の大切さだ。いきなり智也の境地まで行けるかといえば難しいかもしれないが、その端緒にでも触れることができれば、充分逃げ切れるのではないか。明日はこの状況をできるだけ楽しんでほしい!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)