BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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準優ダイジェスト

新・尼崎の大穴パターン!?

10R
①毒島 誠(群馬)24
②辻 栄蔵(広島)22
③篠崎仁志(福岡)20
④片岡雅裕(香川)11
⑤丸岡正典(大阪)15
⑥菊地孝平(静岡)05

 ボートレースは恐ろしい。人気の内2艇を斬り捨てた私の無理筋予想【③-④-全】を嘲笑うような⑤④③=約1300倍、泣く子も黙る特大の萬拾決着だ。大波乱の原因はさまざまに考えられるが、まずは大きかったのがレース直前の風。今日の尼崎は朝から緩い斜め追い風が吹き、ダッシュ勢のパンチ力がまるでなかった。このレースのスタート展示あたりでやんわり向かい風に変わり、いざ実戦は5mを超えるほどの向かい風に!

 今シリーズ前半の多くのレースがそうであったように、スロー3艇は向かい風を受けて出足が利かない。極端な変化で、スタートの補正も難しい。毒島が24、辻が22、仁志が20の薄ら寒いスリットを余儀なくされた。

 一方、助走たっぷりのダッシュ勢は力強く踏み込んだ。口火を切ったのはデジタルスターター菊地。どんな脳内修正を施したのか、何事もなかったかのようにコンマ05を叩き出す。
「菊ちゃんより後ろなので、安心して全速で行けました」
 レース後に丸岡は天然系のほっこり笑顔で吐露したが、おそらく4カドの片岡にとっても心強い牽引車だったはずだ。内でもたつく3艇を伸びなり飛び越えるべく、舳先を左に傾ける。これで片岡にもうひと伸びあれば4-56決着だったか。

 だがしかし、1艇身近く凹んだはずのカド受け仁志の伸び返しが強力無比。まくらんかなの片岡を1マーク手前でガッチリ受け止め、渾身のまくり差しを繰り出した。それは私がガッツポーズするほどの切れ味だったが、引き波を超えた瞬間に推進力を失った。嗚呼、仁志1号機は行き足特化型になりすぎて、準優を差して突き抜けるだけの出足はなかったのか……(後に黒須田からターンマークに追突との情報キャッチ、私の見落としでしたが、なおさら悔しいですっ!!)。

 仁志がもたつく間に、丸岡が、片岡が内からズボズボと差し抜けて行く。あっという間に2艇が抜け出し、かなり早い段階で超サプライズな⑤-④隊形が固まった。準優としてはそこまでで、あとは3着が①なら10万以下、③なら13万舟という部分にファンの興味は絞られた。
 もちろん原因は風だけでなく、人気の毒島30号機のパワーがもう一息だった、丸岡3号機の出足系統が予想以上に強力だった、という機力面のファクターもあっただろう。なにがどれだけ正解かは分からんが、レース後の正直な感想はやはり「ボートレースは恐ろしい」だ。そして、怖いほどありえないことが起こるから、ボートレースは面白い。

痛恨のW勝負駆け

11R
①瓜生正義(福岡)09
②太田和美(大阪)08
③徳増秀樹(静岡)F+02
④稲田浩二(兵庫)05
⑤大上卓人(広島)07
⑥磯部 誠(愛知)08

 ま、またまた大波乱だぁっ! 配当こそ10Rの1/10以下だったが、駿河のディープ大将が気合入りすぎのフライング……徳増にはダービー勝負駆けという別のミッションがあったが、ダービーどころか向こう半年のSG(地元浜名湖のSGメモリアルも!!)の出走権を失った。可哀そうだが、こればかりは自業自得と言うほかない。

 多くのフライングがそうであるように、このレースの方向性を演出したのも徳増だった。決死の3カドから突出した(しすぎた)スタートで圧倒的人気の瓜生まで呑み込み、地元・稲田に美味しい差し場を提供してから水面を去って行った。10Rもそうだったように、今節の向かい風・尼崎の典型的な穴パターン。

 4カドから全速で花道を突き抜けた稲田17号機の足は、A【出A・直A】ながら「ギリギリ上位レベル」と見ている。優勝戦に入れば平凡な足ではあるのだが、地元水面の利と唯我独尊のスタートをやらかす気質はその不足分を補うアドバンテージになるだろう。ほぼリアルタイムで書いているため明日の稲田が白か黒かは分からないが、怖い男が絶好枠を確定させた、とは思っている。

 2着は1マークの混戦からするり抜け出した太田。正直、今節の太田は道中で勝ったり負けたりを繰り返し、「準優の好枠を得たのはイン逃げが2度あったから」などと辛辣な思いを抱いたりもしていた。戦前の評価もB【出B・直B】と準優ワースト級の見立てだったのだが、今日の実戦を見る限りでは行き足も回り足も中堅より上に見えた。ただ、優勝戦の外枠からでは、パワー的にちょいと厳しい57号機ではないか、などとやはりネガティブな評価が私の脳内を往来している。

逆転の鬼手

12R
①椎名 豊(群馬) 08
②桐生順平(埼玉)   14
③平山智加(香川)   08
④石野貴之(大阪)   09
⑤今垣光太郎(福井)21
⑥白井英治(山口)   23

 準優3個レースの中で、椎名だけがキッチリカッチリ逃げきった。戦前に動くかと思われていた白井がまったく動く素振りを見せず、隊形は穏やかな枠なり3対3。白井としては、石野のパンチ力に連動したかったのだろう。
 その先輩の思いを意気に感じたかどうか、4カドの石野はコンマ09まで踏み込んだ。が、カド受けの平山も舳先を揃えてスリットを超えていく。その後の伸び足はダッシュの利も含めて石野が優勢だったが、平山の「来たら張り倒すわよ!」的な鬼気迫る握りマイで先攻めの戦士が決まった。桐生が差して、平山がぶん回して、石野は残念そうな風情な二番差し。

 そんなオーソドックスな攻防を尻目に、インからやはり同じだけスタートを張り込んでいた椎名は、あっという間に1マークを先取りして独走態勢に持ち込んだ。戦前から伸び足に惚れ込んだ2号機は、今やイン戦でも十二分に戦えるほどの優秀なバランス型マシーンへと変貌してしまった。伸びフェチからすると少し残念な変遷ではあるが、もちろん椎名に与えられた枠番には最適なアジャストと言いきっていいだろう、うん。

 さてさて、2着争いは記者席じゅうが蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。バック直線で2番手を確保したはずの石野が、2マークの全速マイでまったくサイドが掛からず大外に漂流。代わって今節の元気娘・平山がど真ん中を突き抜けたから大変だ。
「ま、また女子がっ??」
「さ、最後の近松レディーがっ??」
「さ、讃岐のアマゾネスがっっ???」

 などと訳の分からんことを口走りながら、それでもやはり平山だけを応援しはじめたのだ。セイフティリードと思えた2周2マーク、百戦錬磨の猛者どもはまったく諦めずにはるか後方から襲い掛かる。今垣が無理筋の切り返しを放った瞬間、平山2着の牙城が崩れはじめる。待って、行かせて、差して、ターンマークに追突!!??
「ああ、そこは握って潰さなあかん!」
 私の隣にいた「ターンの魔術師」中道善博さんが思わず声を張り上げたが、確かに、後方から無理攻めした今垣を外から叩ききればそれでケリがついただろう。

 さて、この2マークで一気に混とんと化した2着争いに、もうひとりの男が音もなく忍び寄っていた。いや、エンジン音はあったけど「あんた、いつの間に??」ってな感じで肉薄したのは、桐生順平だ。2艇の後方にぴったり貼りついた桐生は3周1マークで外から内へと切り返し、平山・今垣の航路をやんわり塞ぎつつそれでもスピーディな旋回で舳先を突き出した。な、なんちゅう老獪にして的確なターン!! 藤井聡太の「盤上この一手」の如き鬼手とともに、桐生順平はファイナルの最終チケットを手に入れた。わかっちゃいるが、恐るべし。
 起死回生の2着を取りきった桐生53号機は、初日ドリーム戦で毒島を追いかけ回したときから高く評価している。今日もスピード・テクニックに53号機のパワーがあればこその逆転劇。明日も5号艇から、凄まじいスピードとともに妖しい鬼手を放つに違いない。(photos/シギー中尾、text/畠山)