BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――会心と悔恨と

●10R

 機材トラブルにより、いったんピットアウトしながらも、再発走となった準優1発目。不意に待たされることとなってしまった6人の、集中力や気持ちが途切れはしないかと心配になったものだが、それが直接影響したかどうかはともかくとして、発走前の不穏な雰囲気が象徴するかのような事故レースとなってしまった。
 1周2マーク。最内から逆転を狙った宮之原輝紀が2番手を走っていた河合佑樹と接触。河合が転覆し、宮之原はこれによって妨害失格となった。河合は優出が見えていただけに、あまりにやるせない結末。自力でレスキューを降り、大きなケガがないようだったのが救いではあるが、控室へと戻っていく足取りは重く、駆け付けた宮之原の謝罪を受けても、力なくうなずくのみだった。優勝戦への切符を奪い取られたようなかたちになったのだから、簡単に許すような言葉は返せなくて当然だ。その後も、落胆ぶりは明らかで、大きな心の傷を負ってしまったように見える。次のSGはチャレンジカップか、グランプリシリーズか。一刻も早く、この辛い思いを帳消しにする日を迎えてほしいと願う。

 宮之原は、一大事の中心人物となってしまったことの重大さに顔面蒼白となっている。先述の通り、陸に上がるとすぐに河合のもとに駆け寄って謝罪をし、その後は全選手に対して直立不動から頭を下げて詫びている。SG初出場の若者が、並みいる先輩たちに迷惑をかけてしまったという罪悪感はとてつもなく大きかっただろう。それは深く悔いて、反省もするしかない。ただ、逆転2着で優出を狙ったのは、レーサーとしての本能。それを今回のような思いにつなげることがないよう、初めてのSGでのこの経験と反省を強く胸に焼き付け、さらなるステップアップを目指すしかない。

 勝った田村隆信は、ひたすら安堵の様子だった。それは、この優出が鳴門チャレンジ出場を決定づけるものだったから、ということになるだろう。優勝戦完走でボーダーを超える。田村が今節目指してきたのはまずココ。そのノルマを果たしたことで、まずは一息つけたことになる。ということは、優勝戦はかなり気持ちが軽い状態で臨める、すなわちいいメンタルで臨めるレースということにななるのではないか。単にチャレンジ当確にとどまらず、一気にその先も決めてしまう!?

 2着は濱野谷憲吾。恵まれのような格好なだけに、ピットに上がってきて喜びをあらわにするところは見られなかった。まあ、そういうものだ。濱野谷は現在、賞金ランク99位。優勝戦の着順次第ではチャレンジカップも見えてくるわけだが、会見では「そんなレベルじゃないでしょう?」と質問を軽くいなしている。ということは、余計なプレッシャーをまとうことなく、優勝戦に臨めるということ。その気楽さが怖いのかも、と思う。

 そして、地元の大スター・池田浩二は残念ながら4着。案外サバサバしているようにも見えて、ボート洗浄のときには「ちょっとちょっと、終わったからって雑に扱わないでくれる!?」とヘルプの面々におどけてみせていた。いや、ぜんぜん普通に扱ってましたけど(笑)。そんな振る舞いが、僕には悔しさを紛らすものに見えたのだがどうだろう。どう考えたって、常滑SGでの準優敗退にあたって、心底サバサバした気持ちでいるわけがないのだから。

●11R

 前のレースとは対照的に、淡々としたレース後であった。悔しさを露骨に表現する選手もいなければ、勝った馬場貴也にしても、会心の表情を見せるわけでもなかった。ボート洗浄の際に後輩の丸野一樹と話しながら目を細めてはいたが、別に優出を決めたあとでなくとも、丸野との会話では笑顔も浮かぶだろう。ようするに、やっぱり淡々、なのである。この優出は賞金ランク1位が見えてきたものでもある(現在3位)。個人的にはその意識がうかがえないものかと注目していたのだが、特に見えなかった。まあ、優勝してしまえば余裕で1位に浮上するのだから、まずは優勝を目指すのみ、か。

 それにしてもF2で優出したのだから、上平真二はたいしたものである。モーターが噴いているのはたしかだが、早いスタートを行けないなかで、足を活かすレースができているというのは、さすが名人である。現在賞金ランク22位。優勝戦完走でベスト18に浮上できそうだが、チャレンジカップがF休みなので、少しでもランクを上げておきたいところ。スタートで無理できなくとも、道中で渾身の名人技を繰り出してくるかもしれない。

●12R

 まず、今垣光太郎だ。バック2番手争いに持ち込んで、2マーク小回りで逆転を試みたが、ターンマークに接触して失速。ピットに戻ると対岸のビジョンに映し出されたリプレイに視線を向けて、その場面に見入った。確認を終えた今垣の表情は、まるで泣き出しそうな感じに歪んでいた。準優メンバーでは最年長だが、敗れた悔恨を最も激しく表にあらわしていたのが今垣だったと思う。そうした感情の揺れ動きが見えるというのも今垣らしさである。

 今垣以上に悔しい思いを味わったのは、関浩哉だろう。2番手を獲り切って、SG初優出を勝ち取ったかと思いきや、2周1マークで先行艇の引き波にもろに乗っかり、流れ、失速した。もしかしたら、関にとってデビュー以来最も悔いが残る一戦となったのではないのか。そう思えるくらい、レース後の関は深刻な表情を見せていた。完全に固まり切った顔つき。動かない視線。心ここにあらずといった様子にも見えていて、頭の中に2周1マークが渦巻いているのではないかとも想像した。優出しておけば、賞金ランク18位以内に浮上するのは確実だった。年末を意識しつつ臨んだこのダービー。その目標にひとまず届かなかったことは、悔やんでも悔やみ切れないつまずきである。何はともあれ、明日の特別選抜A戦を何が何でも勝ち切っておきたい。

 関を逆転したのは山口剛だ。現在賞金ランクトップが、まさに今年の好調ぶり、流れの良さをとことん見せつけるかたちになったといえる。レース後はさすがに笑顔がこぼれており、しかし、この逆転が当然とは言わないまでも、ありうべき結果であったというような、余裕の振る舞いもみせている。関には申し訳ないが、これが格の違いかと突きつけられたような気がしたほどだ。賞金トップに立っているというのはこういうことか。そんなふうにも思わされてしまったのだった。

 勝ったのは菊地孝平。メモリアルにつづいて、優勝戦1号艇を手にした。「もうあんな思いはしたくない」。記者会見ではハッキリとそう口にした菊地。あのメモリアルがあったからこそ、明日は死角がまったくない状態で迎えられるのではないか。機力はともかく、ピットに立つ気構えというのか、メンタルというのか、そういう心の部分では完璧に仕上がったと思えるのだ。
 レース直後は笑顔を見せることもなく、厳しい表情を崩さなかった菊地。明日もまた、朝から戦闘モードに入った、どこか哲学的とも言える、独特の鋭い表情を見せてくれるだろう。その先には、地元メモリアルで見せるはずだった、その分も上乗せした、最強の笑顔がある。そうとしか思えない、今日の菊地孝平なのだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)