BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――1st、2nd、シリーズの違い

 スタート練習&タイム測定が進行している間も、6艇のボートは装着場の一角に固まって置かれたままだった。6艇というのは、賞金ランク1~6位のボート。すなわち、トライアル2ndから登場する6人のそれだ。それ以外の選手たちは、自身のスタ練&測定に合わせて急ぎがちに準備を進めている。だが、特訓の10班と11班という、最後の最後に組み入れられた2nd組は、比較的マイペースな準備が許される。これもまた、2nd組に与えられる恩恵だろうか。
 なかでも、原田幸哉はたっぷり時間をかけてプロペラを叩くことが可能だった。地元グランプリという、特別な舞台に特別な思いで臨む男。そんな大事な一戦で、原田が引いたのは石川真二が前節で使ったモーター。それが悪いというわけではないが、ピット離れ仕様という独特な石川のペラは、決して原田向きではない。叩き直すことが必要であるのは言うまでもないのだ。ただ、原田のレースは3日後だ。叩き変える時間はたっぷりとある。前検日からして、時間を裕福に使えたのだから、これは大きい。グランプリは2nd組が圧倒的有利、というセオリーは、こういう面にもあらわれるわけである。

 一方、賞金ランク1位で出場となった馬場貴也は、まずは乗ってから調整を考えようということなのか、わりと余裕な雰囲気で過ごしていた。その合間に、馬場に声をかけられる。BOATBoyのダービーレポートについて、感想を述べてくれたのだ。そして、別れ際に言った。「獲りにいきます」。馬場が引いた51号機は三島S評価。ただし、その言葉はモーターとは関係ない。そのとき馬場はまだボートを水面に下ろしていない(=感触を確かめていない)のだから。つまり、それは馬場が強い気持ちでこのグランプリに臨むという決意表明。特別な舞台だからこそ、その決意が絶対にモノを言うはずだ。

 1st組は、特訓の1班と2班。1班組の毒島誠が、スタ練&タイム測定のあと、本体を割っている。三島10基にも入っておらず、また僕が個人的に教えてもらっている“裏三島”にも入っていないモーターを引いた毒島。まさにその評価どおりの手応えだったということだろうか。毒島が前検日に本体を割っているのはほぼ見たことがないだけに、緊急事態ということなのか?

 2班組からは、石野貴之も同様に本体を割った。石野もまた、前検日に本体整備をするのは珍しいことだ。たった2走で運命が決まってしまうトライアル1st。悠長に「1回レースをしてから」などと言っている場合ではない。2nd組と比べて、1st組にはここに厳しさがあるということだ。

 丸野一樹は、前節に菅章哉が使ったモーターを引いた。菅はチルトを跳ねて戦っており、もちろんその状態のまま、丸野は受け取ったわけだ。そして丸野は、僕の顔を見るなり「ぜんっぜんダメ」と顔をしかめた。2nd組であれば、原田のところで書いた通り、それを叩き直す時間は充分にある。しかし、1st組はそういうわけにはいかない。初戦は6号艇だから、菅仕様で行けば……などという無責任なことはとても言えない。丸野は、自分が力を出し切るためには、現状ではぜんっぜんダメと感じたのだ。明日はギリギリまで、ペラ調整に腐心する姿を見ることになるだろう。

 シリーズ組では、赤岩善生が“いつも通り”に本体に手を付け始めている。毒島や石野が本体を割ったのとは、少し意味が違うというか、仮にトライアル2ndに出場という状況であっても、感触によっては赤岩は本体を触る可能性は十分にありうる。とはいっても、好感触ならこうはならないだろうから、パワーアップの必要性を感じているであろうこともたしかである。

 あ、そうそう。今日の前検のシリーズ組の班分けは登番順ではなく、選考順位順であった。これはかなり珍しい。というわけで、エンジン吊りに出ていこうという選手たちは、今走っている班に同支部や同地区がいるかどうかというのを判断しづらく、いちいち班分け表を確認していた。貼り出されている掲示板の前には選手の人だかりが何度もできた。河合佑樹は覗き込みながら「ん? 今、何班……?」とどの班かも迷っているのだった。なかなか新鮮な光景だった。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)