●９Ｒ
沸き立ったのは宇野弥生陣営！ いや、陣営というべきなのだろうか。なにしろ、このあとの10Ｒには愛知支部勢が２人出走していて、ピットに戻ったときにはまさに展示中。だというのに、ピットには祝福の声があがりまくったのだ。特にはしゃいでいたのが、日高逸子！ グレートマザーはなんども「やっちゃん、やっちゃん」と声をかけ、我がことのように喜んでいたのだ。さらには、寺田千恵や岩崎芳美ら、先輩たちが次々に祝福。今節の選手班長を務め、その苦労を見ていることもあったのだろうか。かわいい後輩の６号艇からの見事な走りっぷりを、最高の笑顔で称えていたのである。
もちろん、宇野もニッコニコだ！ 何度も快哉を叫び、周囲の祝福に笑顔を返す。地元の大レースでの優出に歓喜をあらわにしていた。優勝戦も外枠になりそうだが、宇野弥生らしく優勝を目指してもらいたい。
勝ったのは田口節子。ピットに戻ってきた瞬間、ヘルメットの奥の目が笑っているのが見えた。後輩が作った展開をしっかり突いての１着。その幸運にほくそ笑んだ部分もあっただろうし、もちろん後輩への感謝の念もあったかも。で、その後輩は優出を逃したこともあって、そこまではしゃぐようなところはなかったのも印象的だった。寺田千恵も、田口ではなく、その後輩のほうのエンジン吊りに参加。おそらく勝者への祝福はいつでもできる、まずは敗者を慰労しようということだったのではないだろうか。
そう、守屋美穂は２コースからジカまくりに出た。しかしイン川野芽唯の抵抗にあって流れ、田口と宇野の差しを許した。松本晶恵とは３番手争いになり、一時は先行したのだが、最終コーナーで再逆転を喫した。レースを作ったという評価はできるだろうが、やはりレース後の守屋の顔は曇っていた。ファン投票１位の重圧のなか、しかし優出できなかったということに責任を感じている部分もあったか。ジカまくりで気合を見せたものの、それは守屋にとって自身を納得させるものにはなっていないようだった。
●10Ｒ
９Ｒのレース後に比べて、静かなレース後だった10Ｒ。すでに書いたが、９Ｒ終了後には帰宿１便でけっこうな人数が宿舎に帰ってしまう。というわけで、勝者の長嶋万記や２着の鎌倉涼を出迎えた選手数が非常に少なく、しかも残っているのは12Ｒ出走組を除けば5000番台の若手たちだから、まさか登番が最も若い刑部亜里紗が「長嶋さん、イェーイ！」とか声をかけられるわけがないのである。
そんなこんなで、長嶋も勝利の喜びをひとり噛みしめているようなところがあって、５日目恒例のボート洗浄が終わった頃になって、12Ｒ出走のため残っていた寺田千恵に祝福を受けているくらいなのであった。
鎌倉涼は、近畿地区の香川素子が残っていたから、かなり長いこと笑顔で話し合っていた。１周２マーク、２番手先マイの渡邉優美をとらえ、さらに長嶋万記をも捕まえるかという勢いだったまくり差しハンドルはお見事すぎた。あれは会心のハンドルに違いなく、香川とそのあたりの話をしていたとすれば、あの柔らかすぎる笑顔も納得というもの。２着とはいえ、かなり手応えのあるレースとなったはずだ。
●11Ｒ
つくづくこのタイトルには縁がないというか……遠藤エミがまさかの敗退を喫した。これまでにも予選トップ通過を果たしながら、フライングに散り、２着に敗れて優勝戦の枠番が外になり。そして、今回はまくられて着外。人気者の祭典の女神は、女子最高実力者にはなかなか微笑んでくれない。レース後、沈痛な表情を見せる遠藤。鎌倉涼が悲壮な顔つきで遠藤に寄り添い、そして遠藤は重い足取りで控室へと戻っていった。その様子が、遠藤の忸怩をあらわしているのだった。
遠藤を撃破したのは高田ひかる！ 持ち味の３カドまくりでＳＧウィナーを沈め切った。２号艇は平高奈菜だったのだから、女子きっての実力者を必殺技で仕留めたことになる。この会心に、高田の頬が緩む。とびきりの笑顔！ 最高に彼女らしい走りで射止めたファイナルのピットだ。２号艇に入ることになる優勝戦で、どんな走りを見せてくれるのか。
そして、大山千広が復帰戦のＧⅡで優出！ 予選突破でもたいしたものだと記したわけだが、さらにその上があったのだから、もう何と表現していいやら。大山もまたキュートな笑顔を見せたが、そこには安堵も混じっていたような。長欠明けで不安もあったはずの今節、それを払拭してみせる優出である。少しばかり心の中にあったかもしれない重石は完全に取り払われたはずだ。レディースチャンピオンを制したのが、ここ蒲郡。明日はそれに匹敵するドラマを生み出すのだろうか。（ＰＨＯＴＯ／池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
