BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――目標成就

 午後になってもピットには冷たい風が吹き込んで、しばれる寒さに身体が震える。だというのに、発売が締め切られると選手たちが続々と外に出てきた! 薮内瑞希や勝浦真帆の岡山支部。川井萌や柴田百恵の静岡支部。単身では實森美祐も出てきていたし、もちろん香川素子も! そして、魚谷香織や川野芽唯をはじめとする福岡支部。渡邉優美の愛弟子である神里琴音も、川野の左隣に並んだ。みな、同じ空気を感じながら、先輩だったり後輩だったりの応援をしたかったのだ。あ、寺田千恵と大瀧明日香はレース後に控室から出てきました。ベテランはそれで良し!(笑)

 1マークを回って、渡邉優美が先頭に立つ。「やったーっ!」「よぉーしっ!」。声を上げたのはもちろん福岡支部の面々だ。神里はパチパチパチと拍手。他支部勢はちょっと残念がってもいたが、渡邉が先頭でゴールしたときには手を叩いて祝福している。ピットがちょっとだけほんわかと暖かくなった気がした。

 渡邉優美、優勝おめでとう!

 当たり前といえば当たり前だけど、展示から戻ってきたときには緊張感がはっきりと漂ってもいた渡邉。しかしレースぶりには安定感があった。トップスタートを決めてきっちり先マイ。まったく震えることのない足取りは、堂々たる完勝だ! 係留所でおめでとうと叫びながら出迎える福岡勢に対して笑顔を振りまく。もしかして涙も? なんて話していたのだが、そんな雰囲気はまるでなかった。それだけ確信を持ち、強い意識でレースに臨んだということだろう。そう、精神的にもきっと揺らぐことのなかった堂々の優勝。勝つべくして勝った、と言っていいのだと思う。

 今年の目標は、タイトルを獲ること、年間100勝、勝率8点、と決めていたのだそうだ。そのうちひとつは、今日かなった。あとの2つはなかなかハードルが高いわけだが、あと10カ月、目標に向かって邁進することだろう。それがかなわずとも近くまでたどり着くことができれば、今日の時点で女子賞金トップに立ったのだから、大晦日にはきっと昨年末のリベンジの舞台に立っていることだろう。ちなみに、この優勝でオーシャンカップの出場圏内に突入した。このあとF休みで、その後も記念斡旋が入っていないことから結果を待つ身にはなるが、オールスターのファン投票中間発表が26位だったことも含めて、SGの舞台にもいくつか立つことになりそうだ。そこで、タイトルを獲ったことによる進化を見せてもらおう。

 遠藤エミは、残念ながらまたもやこのタイトルを手にすることができなかった。何度も予選トップ通過を果たしながら、不思議なまでの縁のなさと言うしかないわけだが、地元での敗退はひときわ悔しいものだろう。
 前半のピットでも書いたが、今日の遠藤はひたすらペラを叩き、試運転を続けた。展示ピットにボートをつける11R発売中にも水面を駆ける姿があったほどだ。ギリギリまで調整を続けるのは遠藤の通常のスタイルではあるが、地元大会だけにさらに執念が強まったのだろう。しかし、その努力は実らなかった。モーター返納を終えると、香川素子が遠藤に寄り添って言葉をかけている。おそらく労いの言葉をかけた香川は笑顔を浮かべた瞬間もあったが、遠藤の表情は最後まで変わらなかった。

 レース後、カポックを脱ぎながら海野ゆかりが遠藤に声を掛けたとき、海野が顔をしかめたのに合わせるかのように、遠藤も眉間にシワを寄せていた。遠藤の表情が明らかに変わったのは、控室に戻るまではその瞬間のみ。しかし胸の内には、昨日の準優の敗退も含めて、もやもやしたものがうごめいていたことだろう。

 他の敗者にしても、もちろん勝てなかった悔いは胸に残ってはいたはずだが、わりと淡々としたレース後だったように思う。クイーンズクライマックス優勝戦の後には涙を見せていた守屋美穂も、今日は粛々と返納を終えているし、三浦永理も準Vとなった宇野弥生もテキパキと作業をこなして素早く控室へと消えている。それだけに、遠藤の一瞬の渋面と、その後の表情の変わらなさがむしろ印象に残った。やはり遠藤にとって、このびわこレディースオールスターは特別な一戦だったのだと、そう思う。

 さてさて、タイトルを初めて獲得した渡邉優美、ということで、この寒さのなかでやりましたよ、水神祭!

 集ったのはもちろん福岡支部の面々。さらに、遠藤も居残って素直に渡邉を祝福するために参加している。一群の最後尾で、ウルトラマンスタイルで持ち上げられた渡邉の両足を持ち上げ、前に押すというのが遠藤の役割。というわけで、前方の面々が投げ込むのに遠藤が勢いをつけるかたちで、1、2の3でドッボーン! わー、見てるほうが寒いぞ!

 遅れて飛び込んだのは魚谷香織と神里琴音。最年少で愛弟子の神里が飛び込むのはわかるが、川野芽唯や小野生奈、竹井奈美を差し置いて残ったなかでは最年長の魚谷が飛び込んだのはなぜに?(笑)。3人は水面から顔を出しながらさむーい、やばーい、さむーいと叫びながら、仲間の手助けで陸に引き上げられましたとさ。風邪ひかないように、早くお風呂入ってくださーい!
 渡邉もこの寒さのなかでの水神祭は思い出として強く刻まれたことだろう。改めておめでとう!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)