慎重ターン。
12R優勝戦
①土屋智則(群馬)08
②羽野直也(福岡)14
③池田浩二(愛知)13
④篠崎元志(福岡)13
⑤石野貴之(大阪)24
⑥茅原悠紀(岡山)14
去年の椎名豊に続いて、また群馬からSGスターが誕生した。土屋智則、97期。デビューから17年4カ月での嬉しいビッグ戴冠、おめでとう!
インコースからコンマ08の突出スタートでの押しきり。こう書くと圧勝に聞こえるだろうが、実際は危機一髪の1マークだった。肝を冷やしめた敵は、4カドの元志。スリット同体の池田を伸びなり飛び越え、握りっぱなしで土屋まで叩き潰そうとした。大舞台でこれだけ豪快に攻める元志を見るのはいつ以来だろう。私は舟券に絡めていなかったが、元志の獰猛果敢な姿は妙にまぶしく思えた。
いや、果敢に攻めただけでなく、その猛攻は土屋を仕留めたようにも見えた。旋回の角度、握りっぱなしの勢いが、土屋よりも迫力満点に見えたから。
強い兄貴、久々に復活なのか!!??
だがしかし、内から小回りで応戦した土屋の舳先がツンと飛び出す。その光景は、昨日の準優で茅原の奇襲ツケマイを浴びた直後のそれとよく似ている。まくられそうでギリギリ耐え忍び、逆に内からスッと伸びる、ちょっと違和感のある光景。
一の矢を受け止めきった土屋だが、真っ向から面倒を見た分だけ推進力は落ちている。私は2コースからくるり小回りする羽野キュンの大チャンス、と見ていたのだが、旋回途中で舳先がドーンと浮き上がって万事休す。あれは何がどうなってああなったのか、今のところはよく分からない。
で、代わって凄まじいスピードでど真ん中を駆け抜けたのは……6号艇の茅原!!!! 否が応でも2014年のグランプリの光景が脳裏をかすめる。勢い的にはあって不思議のない猛烈なまくり差し。
またまた緑の茅原なのか!!??
今朝のWBC準決勝よろしく、こっちのWBC(ワールドボートレースクラシックw)もまたサヨナラ大逆転の長打が炸裂したかに思えた。だがしかし、外で元志に競り勝った土屋の舳先が、ここでもまたにょっきりと突き出した。突き刺さるように見えた茅原の舳先は、スリット裏を超えてもついぞ刺さることはなかった。
そう、これが65号機だ。
「エンジンに助けられてます!」
準優後のインタビューの言葉を思い出しながら、私は先頭に躍り出た真っ白いボートを眺めていた。今日の土屋も、そう思ったに違いない。今日のあの展開で65号機が凡機だったらば、元志にまくられ茅原に差されでバック直線は④=⑥一騎討ちの大穴展開になっていたはずだ。どんなシリーズでも機力の良し悪しを痛感する事例は多いが、今日の優勝戦はその最たるものとお伝えしてもいいだろう。
1周2マークで必勝形に持ち込んだ土屋は、残る4つのターンマークを慎重に回っていた。それで元志がじわじわ詰め寄っても、慎重に慎重に。最終ターンマークはほとんど波が立たないほど減速して慎重に。4Rの太田和美よりぴったり1秒も遅い1分49秒8で、栄光のゴールを通過した。
「土屋訓練生はレーサーとしての資質はかなり良いものを持ってるんですけど、ちょっとおっちょこちょいな性格なんですよ」
97期の卒業記念レースの前日、主任教官がこんな言葉を口にしたのを今もうっすら覚えている。その言葉を受けて翌日の土屋訓練生を見たらば、声がバカでかく、ひとつひとつのアクションもやたらと大きくて、なるほど元気だけどおっちょこちょいかも、などと感じたものだ。
デビューから6年4カ月でGI新鋭王座に優出(5号艇)したときは、公開インタビューで「コースは、そりゃ動かなきゃ面白くないじゃないですか(笑)。絶対に動きます! 動いたほうが面白いと思うひとーー!」などとファンを盛り上げていたが、ここでも私は「やっぱ、とんでもないお調子もんかも?」と思ったりしたものだ。
同期には西山貴浩や山口達也という超個性派がいるので、その影響をまともに受けたのか。それとも天性のものなのか。それは分からないが、最終ターンマークでとんでもなく落として旋回する土屋を見て、私は噴き出しそうになってしまった。もちろん、この場に来ることができなかった西山も大喜びしながら、慎重すぎるターンを見て笑うに違いない。
おっちょこちょいのエリート訓練生は、己の性格を痛いほどに自覚しながら、SGレーサーへの境界線をゆっくりしっかり走り抜けた。(photos/シギー中尾、text/畠山)