BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――4000番台の名人!

 4000番台の名人誕生! 井口佳典はレース後の囲み会見で「名人じゃないです。まだまだ凄い人たちがいる。ぜんぜん肩を並べられてないです」と謙遜していたが、いやいや、立派な名人ですよ! まあ、たしかに4000番台であり、永遠の若手と勝手に思っている銀河系軍団であり、その立ち居振る舞いがまだまだ若々しくあり、といったあたりが、やはり「井口名人」の呼称に違和感を呼び起こしたりするのだけれども、しかしこのタイトルを圧倒的強さで勝ち取ったのだから名人位にふさわしい。全員がSGウィナーという超強力メンバーを相手に堂々逃げ切ったその姿は、たしかに24代名人そのものだったのだ。

 レース直前の井口は、さすがに緊張感を味わっているように見えた。グランプリ優勝戦1号艇を経験し、しかも乗り切って黄金のヘルメットをかぶったことはあっても、やはり大一番で白カポックを着ることには特別なものがある。百戦錬磨のベテランでも、それは変わらないだろう。
 ただし、それで浮足立つような井口佳典ではない。ビッグレースの優勝戦Fの罰則が強化されたばかりのプレミアムGⅠ優勝戦。昨日は準優でFが出て、今日も10RでFがあった。もろもろと思うところはあったはずだが、それでもスタートで後手を踏むことなく、中澤和志の強襲を冷静に受け止めたあたりは、その力量の確かさを表現したものであったと思う。

 そして、勝って驕らず、といった姿勢もまた井口佳典そのものであった。ウィニングランでも何度も深々と腰を折っていたし、表彰式では四方のお客さんに頭を下げた。ピットでも同様だ。先輩たちの祝福には丁寧に返し、囲み取材の場でも必要十分な言葉を穏やかに返していた。そうした姿はひたすら漢っぽく、一本芯の通った強い人間であることを示している。こうした全国的なビッグレースでは、18年クラシック以来の優勝。久しぶりに大舞台でどこまでも漢な井口佳典が見られたことは、やはり嬉しいの一言である。

 願わくば、大先輩の村田瑞穂さんとの抱擁が見たかった! 今節、JLCのピット解説を担当していた村田さんは、現場で後輩の晴れ姿を見ていた。井口がウィニングランでファンの歓声に応える様子も、ピットの水面際で対岸のビジョンをずっと見入っていたのだった。残念ながらピットでの対面はかなわなかったが、村田さんも「よかったです」と嬉しそうに目を細めていたのだった。井口のなかにも、大先輩が同じ空間にいたことは意識としてあったはずだと思う。

 井口は会見の最後に「もうひとつ上の舞台での活躍」を口にした。もちろん、次に期待するのはそれしかない。昨年のダービーでSGに復帰し、ここまでは結果らしい結果を残せてこなかったが、これが大きな大きな契機となるはず。次のオールスターでは、この優勝が導火線に着火したことを改めて知らしめてくれるかも。久々のSGでの爆発、おおいに楽しみにしよう。

 敗者たちは、ベテランらしいというか何というか、わりとサバサバしているようにも感じられたが、そのなかでも最も悔しそうに顔を歪めていたのが瓜生正義だったことは、正直ちょっと意外であった。やはり、地元若松でのビッグレース、胸に秘めたものは熱かったのだ。選手会会長となっても、トップレーサーとしての炎はまだまだ滾っている。それを見ることができたような気がして嬉しかった! オールスターも地元開催だ。静かに、だろうけれども、さらに炎を燃やすことを期待したい。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)