BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――輪の中心

 新開航、無傷の3連勝! こうなると、周囲はにわかに色めき立つ。選手も、報道陣もだ。エンジン吊りに集まった仲間たちは、みな微笑を浮かべて若きヒーローを迎える。その輪の真ん中にいる新開は、むしろバツが悪そうでもある。新開自身、SGで予選前半を3連勝で終われるとは、どこか信じられないような思いなのだろう。オールスターも初戦、2走めと連勝をしているが、3走目で大きな着を獲っており、3連勝はこれが初。当然、オールスターではそこからリズムを崩して予選落ちを喫している記憶が残っているだろうから、ここで浮かれているわけにはいかないという思いは強いだろう。勝利者インタビュー後には報道陣に囲まれていたが、そこでもあまり大きなことは言わないで、しっかりと兜の緒を締めているようであった。

 その囲まれている新開を、桐生順平がニヤニヤ顔で眺めながら通り過ぎた。もちろん油断ならないライバルの浮上、という思いもあっただろうが、若い後輩が一躍主役扱いされている姿をかわいいと思っているかのような笑みでもあった。桐生も頭角をあらわしてきたころに同じような経験があったはずだから、微笑ましくその様子を見ているといった風情だ。

 その後に前田将太とすれ違ったときには、「新開、ヤバいっすね。さっきの、めちゃくちゃうまかった」と感心するように、なのか、驚いて、なのか、ともかく口にしなければいられないかのような雰囲気で声をかけてきている。前田にとっては同支部の後輩。新人のころもよく知っているだろうから、なお感慨深いものがあるのかもしれない。先輩、負けてられないっすよ!

 差された赤岩善生は、当然ながら不機嫌そうな表情を見せている。地元中の地元・蒲郡での1号艇には並大抵ではない思い入れがあるだろうから、それを20歳も年下の若手に先んじられてしまえば、簡単に割り切れない思いがあって当然だ。ここまでオール2着は悪い成績ではないが、1号艇2着が含まれていることを思えば、納得などできようはずがあるまい。

 10Rは、石野貴之-峰竜太の決着で、ド順当なところに収まったわけだが、レースは単純なものではなかった。長嶋万記が2コースからジカまくりを放ったのだ。石野がこれをガッチリと受け止め、さらに峰が冷静に差して、長嶋は後塵を拝することになるわけだが、これはナイスファイトの一語だろう。艇界トップの2人に挟まれる枠番は、ともすれば怯んでおしまいとなってしまってもおかしくないところを長嶋は攻めた。結果はまったく関係ない。これも長嶋の進歩だと思う。

 レース後、石野と長嶋が笑顔でレースを振り返りながら控室へと戻っていく姿からは、石野もおそらく意表をつかれたのだろうと見えたし、また長嶋の健闘を称えているのは明らかに思えた。1期違いだからもともと気安い間柄ではあろうが(養成所で半年かぶっている)、それは熱戦を戦い合った者同士のエール交換に違いなかった。

 カポック脱ぎ場でも、結局のところ、長嶋が作った展開が感想戦を盛り上げていたと言っていい。「峰さんが止まっているように見えたから躊躇したわー」と磯部誠が峰をイジったり、前田将太がやっぱり峰をからかったりしている様子からは、峰が中心にいるようにも見えるが、それも長嶋がジカまくりに出たからこその会話である。それを聞きながら、長嶋も可笑しそうに笑っており、実にいい光景である。ようするに実に好レースだったということで、長嶋の奇襲がそれを生み出したというわけだ。

 さてさて、6Rは5着で、予選前半はゴンロク、しかも不良航法までとられてしまった渡邉優美。今節はなんとしても最低でも水神祭、という気合は萎えていないようだが、苦しい予選前半ではある。ということで、レース後は本体整備に取り掛かった。とにかくもがいてもがいて、上向かせようと必死なのだ。明日は2号艇と4号艇。今のところ予選で1号艇は回ってこない予定なので、ここらで進境を見せたいところである。今日は徳増秀樹だったり長田頼宗だったり、整備が結果につながった選手たちもあらわれている。渡邉もこれに続きたい、3日目となる。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)