
いやはや凄い。夏のレディースチャンピオンからクイーンズクライマックス、そしてスピードクイーンメモリアル。ほんの半年ほどの間に全部獲った! そう、女子PGⅠは3レース。一気に駆け抜けてコンプリートV! もちろん史上初の快挙だし、それを同一年度に独占する格好で手にしたわけだから、まさしく歴史的優勝である。ほんとに凄い!

そんな大仕事を成し遂げながら、決して派手に歓喜せず、淡々と笑顔を振りまいているあたりにも驚かされる。会見で今後の目標を問われ、「もともと目標を立てるタイプではない」と語った鎌倉。先を見すぎず、目の前の戦いに全力投球した結果がこの大快挙だとするなら、それは実に真っすぐな強さだ。俺だったら大騒ぎしちゃうところだよなあ、なんて鎌倉を見ながら考えているワタシなど、鎌倉涼のもつ強さなど一生身につかないんだろうなあと思ったりして。とにかく、比較的静かな歓喜をたたえているからこそ、その雰囲気に圧倒される。なんと神々しい女王だろうと唸った次第であります。

ところで、今日3月1日は結婚記念日だそうだ。昨日は今井裕梨のバースデーGⅠ初優出に沸き、今日は鎌倉の結婚記念日V。大会名通りにメモリアルな大会ともなったわけである。しかも鳴門は、22年チャレンジカップで夫の深谷知博はSG制覇した舞台である。女子全冠制覇はもちろん圧倒的偉業だが、鳴門ビッグ夫婦制覇もなかなか偉大な記録ではなかろうか。2カ月前、大村ビッグ夫婦制覇も成し遂げたわけで、まさにボートレース界最強カップルである。そうしたトピック達成にも「わかりやすい日が結婚記念日でよかったです」と嫣然と微笑む姿は、やはり神々しい。さまざまな意味をぜーんぶ込めて、本当におめでとうございます!

前田紗希の姿は痛々しさしかなかった。緊張感に包まれていただろう優勝戦。そんななかでハナを切るスタートを決め、力強く1マークを先に回った。握って来た小野生奈を牽制つつもしっかり舟が帰ってきたターン、レースぶりに大きな瑕疵があったとは思えない。しかし、内から遠藤エミが舳先を掛けてきて、絞め込んで振り切った分、2マークに寄っていたところを、鎌倉に差されてしまった。それにしたって展開の綾であって、プレッシャーに呑み込まれたレースぶりというわけではなかったのだ。

ピットに上がって、本来ならエンジン吊りは仲間に任せてカポックを脱ぎに向かうのが節間最終走を終えた選手の行動。しかし前田は、どうしていいのかわからなくなったかのようにボートの横で立ち尽くし、浜田亜理沙に促されて控室へと駆け出している。その途中、モニターにはリプレイが流れて、それを見つめる。前田のピットでの様子といえば、けっこう笑みを浮かべている柔らかい表情が印象的なのだが、そこからは笑みが消えた。モーター返納作業の間にも呆然と立ち尽くす瞬間があったし、さまざまな思いが去来していたのは間違いないだろう。

返納を終えて、控室へと戻る途上で報道陣の取材を受ける。明るく振る舞いつつ受け答えしていた前田だが、やがて涙があふれ出した。途中、鎌倉が「ごめん」と声を掛けにきたときには笑顔を作ったが、その後も涙は止まらない。逃げた、そう思った瞬間があっただろうから、なおさら哀しさがつのる。見ているこちらもつらい……。
いつか、あれがあったから強くなれた、と語れる日が来ることを信じたい。実際、大舞台でつらい涙を流して、それを糧にして大きくなった先輩はたくさんいる。そこに前田紗希の名を連ねてほしい。敗れてしまったけど、いいレースだったと思います!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)