BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――11年3カ月の重み

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 11年3カ月ぶりのSG制覇。あれは福岡開催のグランプリ。今日と同じように逃げ切ってピットに凱旋した吉川元浩は、鎌田義と抱き合って大号泣していたものだ。たぶん、峰竜太のSG制覇時よりも大泣きだった。吉川もカマギーも声をあげて泣いていたのだ。感動的なシーンだった。
 6日制のSGは初めての優勝。それもあって吉川は「これがSG初優勝のような感じもしている」と語っている。しかし吉川は、11年3カ月前と違って涙は見せなかった。かわりに、とびきりの微笑みをたたえていた。男っぽく鋭い顔つきの吉川の頬がひたすら緩む。目元もずっと笑っている。11年3カ月が経って、マスターズ世代となった吉川は、メンタル面でもきっと変化があったのだろう。おそらく、強くなった。

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 そうそう、マスターズ世代のSG制覇はなかなかの快挙であろう。昨年のグランプリシリーズで平尾崇典が優勝しているが、グランデ5に限れば10年メモリアルの今村豊以来。当時のマスターズ世代は48歳以上だったとはいえ、吉川の優勝はミスター並みの快挙ということもできる。
 そのキャリアは、今日になって突然吹き荒れた強風に対してもしっかりと対応できる強さを身に着けさせた。水面も荒れて安定板が着くなか、吉川もやはり不安を感じたという。しかし、開き直って「自分がやれることをやるだけだ」と腹を据えて優勝戦に臨んだ。それはやはり、この11年3カ月の間にさらに重ねた強さでもあろう。

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 ウィニングランを終え、レーシングスーツに着替えて表彰式への出発を待つ間、吉川は淡々とたたずんでいた。その落ち着いたたたずまいには、百戦錬磨の貫録すらあった。「11年3カ月は長かった」とも語っている吉川だが、この年月にはきっと意味があった。「まだまだSGを獲りたくなった」という吉川は、このブランクを超えて、さらなる強さを身に着けていくだろう。
 で、来月はマスターズチャンピオンに出場、なんですよね。ピカピカのSGウィナーに宮島で会えるのを楽しみにしていよう。

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 長田頼宗は顔をしかめながら首を傾げ、白井英治は眉間にシワを寄せ、徳増秀樹は表情をなくす。4着以下に敗れた3名のレース後を一言でいえば、そうなる。長田は角谷健吾や石渡鉄兵ら先輩にねぎらわれているうちに笑顔も戻ったが、白井はモーター返納が終わるまで笑顔なし。徳増もカタい顔つきで、モーター格納をヘルプした静岡勢もどこか浮かない様子だった。徳増の心の重さが伝播したのか。

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 ツケマイで吉川に迫った馬場貴也は、あと一歩だけに悔しさも小さくはなかろう。ピットに戻ったときにはどこかナーバスな様子に見えたし、報道陣に囲まれながら首を傾げる場面もあった。

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 SGの優勝戦を初めて経験した桑原悠は、何を感じただろうか。ピット離れで出し抜かれたことなのか、まくり差しが入らなかったことなのか、レース後の表情には悔しさが満ち満ちていた桑原。個人的には、6コース発進でメダル授与式の表彰台に立てたことは上出来だと思うのだが。それに満足するのではなく、さらに上を目指す思いが強くなったとするなら、今日見せた悔恨の表情は必ずポジティブに作用することだろう。これでグラチャン出場権も得た。6月多摩川でまた会いましょう!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)