優勝戦公開インタビューが終わり、
すぐに水面に出て行ったのは細川裕子だ。
「明日は朝から調整をする」との言葉通り、
セッティングを模索しているのだ。試運転で水面を駆け、
陸に上がってセッティングを変え、また水面に出て、
戻るとペラ調整やギアケース調整をして、またまた水面へ。
今日一日、細川はこうして優勝戦までの時間を過ごすことになる。
試しているのはチルト3度だけではない。
3R前にピットに戻った際、森“女子バン”喜春が覗き込んだところ
「1度ですね」。どのセッティングがもっとも伸びるのか。
単にチルトを跳ねれば伸びるというものではないだけに、
細川はとことん、最適のセットを探しているのである。
スパーリング・パートナーは福島陽子だ。
細川が陸に上がってくるとリフトで出迎えて、
アドバイスを送っている。福島も、女子きってのチルトの使い手。
同じ志をもつ後輩が優勝戦で跳ねチルトを模索しているとなれば、
黙っていられないのは当然だ。細川の相談にこたえて、
ペラの方向性なども惜しげもなく教えており、
また足合わせも行なっていた。細川にとっては
心強い存在が味方についたことになる。
もちろん、そこまで奮闘しても伸びが見つからず、
昨日までのセッティングで優勝戦を戦う可能性も残されている
。直前情報は見逃さないでほしい。
そして、もし本場でこれをご覧いただいている方がいらっしゃるのなら、レース間に奮闘する細川の姿を熱く見守ってほしい。
細川以外は、わりとゆったりした動き出しである。
1R前にペラがモーターに装着されていたのは日高逸子だけで、
横西奏恵と向井美鈴のボートにはモーターも装着されていなかった。その日高も、リラックスした様子で過ごしており、
選手仲間と談笑する姿を何度か見かけている。
2R前にペラを外してペラ室に入っているが、
慌てた様子は少しもなかった。
グレートマザーらしい余裕のふるまい、といったところか。
池田明美はペラ室で見かけた気がする。気がする?
遠目には浩美ではなく明美と自信もって言い切れないから(笑)。
はっきり「明美だ!」と言い切れるのは、
係留所にレース観戦にあらわれたとき。
浩美と一緒にいることが多いから、
さすがに「片方は明美」とわかる(笑)。
いや、二人並ぶと髪型が微妙に違うので、はっきり認識できるのだ。
あるいは、数m離れたくらいならわかりますよ。って、
今さら何を言ってるのでしょうか。
ともあれ、明美も余裕をもったふるまいで、
優勝戦の午前中を過ごしていた。
超抜パワーに自信があればこそ、
どっしりと構えていられるということだろう。
表情も、昨日までと変わらないように見える。
1号艇の田口節子は、さすがに表情が強張っているようにも見えるが、優勝戦1号艇なのだから、それも当然だろう。
そして、それが深刻なものとは思えなかった。
ペラ室で調整中の田口を見かけているが、
隣で叩いていた金田幸子にアドバイスを送ったりもしていたのだ。
金田が叩いたペラを覗き込んで、一言二言話しかけると、
金田はそのペラを手に係留所へと駆け出している。
「節ちゃん、こんな感じで大丈夫かな?」「いいんじゃない?」てな感じか。その姿をもって平常心を保てていると言い切れないのは
たしかだが、本当にガチガチになっていたら、
後輩に気持ちを向ける余裕は生まれていないだろう。
2Rが出走となる直前、整備室から向井美鈴が
モーターを架台に乗せてあらわれた。整備室を覗き込んだ際、
奥のほうに向井らしき姿がちらりと見えたのだが、
やっぱりか。整備士さんと話し込んでいた様子にも見えていて、
調整のアドバイスを受けていたか。
片岡恵里や佐々木裕美の手助けを得てモーターを装着すると、
次はペラ室へと向かっている。
試運転に出ていく姿は見ないまま記者室に引き揚げてきているが、
すぐにでも水面で姿が見られることになるだろう。
モーター装着がラストになったのは、横西奏恵。
2Rが終わり、3R発売中になって
ようやくモーターをボートに乗せている。
その前に整備室には姿が見かけられていないから、
これが始動ということなのだろう。すぐにペラをモーターにセットし、
さっそく試運転か、と思いきや、香川素子と談笑しながら
控室へ戻っていってしまった。これが絶対女王の余裕なのか、
と唸らされたものだ。 だが、モーター乗っけるだけ乗っけて
控室でのんびり、というわけではない。
おそらくはケブラーズボン着用など、
乗艇のための準備に向かったはずだ。
4R発売中、記者席でパソコンに向かった瞬間、
目の前の水面に横西というプレートが
1マーク方面に駆けていくのを目撃したからだ。
始動はゆっくりでも水面に出るのは素早い。
これがベスト6のなかでは細川に次ぐ着水→試運転なのである。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)