優勝戦の朝は、比較的静かな空気が流れる……と思いきや、むしろ昨日よりもざわめきが広がっているように思える。チャレンジカップだからだろうか。
なにしろ、SG優勝戦組、1~4号艇のボートが装着場にない。通常なら6艇まるまる、装着場に鎮座していることも珍しくないのに、好枠勢が水面に出ているのだ。1号艇の山口剛は、昨日のレース後はさんざん石野貴之の名前を出していた。JLCのインタビューでも、記者会見でも、石野との足の差を考えれば厳しい戦いになると繰り返し口にしていたのだ。早くから動いているのは、その差を少しでも埋めるべく、ということなのだろうか。
一方で、その石野もまた、山口以上に忙しそうに動いているのである。装着場からわずかに見える水面を、石野が走っているのが見えた。その後、ペラを持って調整所に向かうのも見た。山口をさらに脅かすべく、昨日まで以上のパンチをつけようという作戦か。
二人ともグランプリは当確。山口は6位以内が確定で、トライアル2nd1号艇も濃厚。それでも、ひたすらSG優勝を目指す。それがトップレーサーの本能ではある。
3号艇の片岡雅裕、平本真之は、ボートは水面にあるが、二人とも整備室出入口脇のテーブルで、ペラにゲージを当てている姿があった。時間さで二人同時というわけではなかったが、試運転をしてみて、改めてペラの状態をチェックしているということだろう。
同じテーブルで、深谷知博はゲージ擦りを行なっていた。この作業は一昨日あたりから見られるもので、プロペラに手応えがあるからこそ、ゲージに形状を写し取っているということは間違いなかろう。優勝戦の朝にも行なっているということは、足的には余裕があるということで、作ったゲージをもとに今日は調整を行なっていくものと思われる。
SG組では、篠崎仁志のみ、朝は特に動きがみられなかった。プロペラもモーターに装着されたまま。優勝戦の朝のベスト6組としては、特段、不思議なことではない。
大きな動きがなかったのは、むしろGⅡ優勝戦組。装着場には守屋美穂以外のボートがすべてあって、鎌倉涼や中村桃佳のモーターにはペラも着いていた。二人とも、エンジン吊りなど、姿はよく見せていて、落ち着いた様子。唯一、逆転ベスト12入りを目指す鎌倉にしても、穏やかに過ごしているようだった。
ただし、ひとつだけ懸念されるのは細川裕子だ。ボートにはモーターが装着されておらず、整備室に置かれていたのだが、朝の試運転で“コケて”しまったようなのだ。転覆なのか落水なのかはわからなかったが、回り足がかなり仕上がっているように見えただけに心配ではある。細川自身はプロペラ調整をしており、ペラにも影響があったのか……? ともかく直前情報には注意していただきたい。
GⅡのほうでは、1Rから重要な戦いが。賞金ランク12位・落合直子と13位・堀之内紀代子の「500円差」バトルだ。まずは落合が1Rに4号艇で登場。1着なら暫定12位は確定する一戦で、4カドからスタートを決めたが、1マークで攻めるには至らず6着大敗。引き波や他艇に揉まれて後退するシーンがモニターに映し出された瞬間、ピットには大きな溜息が巻き起こっていた。落合はひとまず淡々と戻って来てはいるが、その心中は複雑な思いが巻き起こっているはず。この時点ではまだ12位となってはいるが、嫌な緊張感をもって5Rを待つことになってしまった。
この1Rを勝ったのは、堀之内の先輩である寺田千恵。エンジン吊りに参加した堀之内に言葉をかけている。金田幸子や、お隣広島支部の海野ゆかりも。堀之内は5着以上が暫定12位の条件。先輩や仲間の激励を受けて、勝負駆けに臨む。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)