「三国とはぜんぜん違いますね。
いいレースができているということは、
緊張していないってことですよね。
ドキドキしてたら、自分のレースができないわけですから。
だから今日も、落ち着いていきます」
平山智加は、特にカタくなっている様子もなく、そう語った。
優勝戦1号艇といえば、三国女子王座で経験済み。
あの日はさすがに緊張と重圧に押しつぶされそうな雰囲気だったが、いちど体験したことで、平山はそれを抑え込めるはずだと
確信している。三国のリベンジのいいチャンス、とも口にしていた。
ただ、そうは言っても、レースが近づいてくれば
緊張はしてしまうだろう。それで当然。
直前にリラックスしていたら、そのほうが不自然だと思う。
だから、ひとつ心配があるとすると、
「緊張しないように」という意識を持ちすぎてしまうこと。
話した雰囲気からはきっと大丈夫だろうとは思えたのだが、
果たして。
1Rの展示が終わったころ、
日高逸子がモーターの本体部分を外し始めた。
日高は朝特訓に参加していて、
1回ボートを陸に上げたのち、本体整備を決意した模様。
検査員さんに声をかけられて
「ぜんぜんダメ~」と言っていたから、
昨日の会見でも言っていたとおり、
できることはすべてやり尽くそうということだろう。
同じころ、山川美由紀が本体を開けていた。
山川はその時点でまだモーターをボートに
装着しておらず、どうやらその前の点検の様子だ。
実際、短時間で組み直しており、部品交換などの
類いではなさそうだった。
その後、モーターを装着した後にギアケースを外して、
調整を始めた。優出組で
はもっとも遅い始動だった山川だが、
動き自体は実に精力的だ。
田口節子、香川素子、池田浩美は
3人ともリラックスした表情で過ごしていた。
共通していたのは、周りを仲のいい選手が取り巻いていたこと。
まだ大きな作業が必要ない時間帯ということだろう、
仲間と実に楽しげに時間を過ごしていた。
田口の周りには寺田千恵と佐々木裕美。
話の内容はプライベートのものだったようだ。
テラッチも佐々木も、もちろん田口自身も笑顔を見せており、
まさしく“井戸端会議”のような雰囲気なのであった。
池田を取り巻いていたのは、静岡軍団。
明美、長嶋万記らが浩美の気持ちをほぐしている。
池田紫乃も浩美に“ベッタリ”。
彼女たちが浩美にパワーを注入しているわけだ。
香川は西村美智子と話していたのだが、
西村が香川の髪の毛を触りながら、
何かを尋ねているようだった。ヘアスタイルの話?
それともシャンプーは何使ってるんですか、とか?
そうした会話を何気なくできているのだから、
やっぱりプレッシャーは皆無ということのはず。
こういうの、ガールズトークっていうんだっけ?
1R後に浜田亜理沙の水神祭で沸き返ったこともあり、
ピットには妙なカタさというものは皆無に思える。
初のナイター女子王座、真夏の夜の優勝戦。
全員が力を出し切る熱戦になると確信する!
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)