BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――整備

 

 

 

 

 

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ボートリフトの脇で、平本真之がハンドルをぐるぐるぐると回していた。といっても、ボートのハンドルではない。

そこには2本のローラーがついた機械が置いてあり、

平本が回していたのはそのハンドル。

これは、アカクミ(操縦席に入った水をかき出すスポンジ)の

脱水機で、ローラーの間にアカクミをはさんで

ハンドルをぐるぐる回すと、ローラーが回転して水を絞り出すという

仕組みのもの。隣では中村亮太が手でアカクミを絞っており、

「先輩に渡すとき、濡れていたらやっぱり、ね」とのこと。

ただ、多くの場では電動の脱水機が導入されていて、

手動式のものは珍しいと言える。先輩のためにぐるぐると

ハンドルを回す平本の甲斐甲斐しさは、

まったくもって、彼らしい姿だ。ちなみに亮太が絞っていたのは、

「あ、これは自分の分です(笑)」。 

その平本、11Rで転覆を喫してしまった。

1マーク、2コースから差し切ったと思った瞬間、ボートが振り込んだ。リプレイを見ていた選手たちは「ハンドルを戻すのが遅れたか?」と

言っており、だとするなら平本にとっては痛恨。

ずぶ濡れでピットに戻ってきた平本は、思い切り顔を歪めていたが、

それはどこかをぶつけた痛みよりは明らかに悔恨によるもののように見えたものだった。実際、身体はひとまずは無事のようである。

若手の作業を決してないがしろにすることなく、

同時に自身の調整もとことん行ない、そしてレース後には

素直に感情を表現する。そんな好青年ぶりに触れたら、

誰だって平本を応援したくなるというもの。

明日はこの悔しさを振り払う快走を見せてほしいぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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平本が転覆整備をしている様子を覗き込むと、

濱野谷憲吾がゲージを擦っていた。

新プロペラ制度導入後の法則「早い段階から

ゲージ擦りをしている選手はエンジン出ている」を適用するなら、

やはり憲吾のモーターは好パワー。評判機ということで

注目を集め、しかしここまでは不本意な成績になってしまっているが、機力は悪くないのだ。明日は巻き返しなるか?  

ちなみに、昨日は石川真二がゲージ擦りをしていた。

こちらもパワーに不安はないのかも。すべての時間を

ピットで過ごしているわけではないので見逃している選手も

あるかもしれないが、いまのところゲージ擦り目的選手は

この二人だけだ。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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整備室には石野貴之の姿もあった。

昨日、三ツ割整備をしていたことは書いたが、

やはり2Rにはクランクシャフト交換で出走。

さらに8Rにはキャブレターも交換して登場している。

懸命のパワーアップをはかっているのだ。そのレース後も、

石野は整備室にこもっていたようで、

具体的な作業内容は確認できていないが、

もっとも長く整備室で過ごす男となっている。

この努力、なんとか実らないもんかなあ。

パワーが足りないから整備をするのは当然のことだろうが、

しかし懸命な姿を見れば、やはり声援を送りたくなるというもの。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そういえば、峰竜太は逆に「モーターを壊しそうで怖いから、

何もしていない」と言っていた。とにかく素性が悪く、

しかし手を入れれば逆に悪くなりそうなモーターだというのだ。

今朝、たまたま喫煙所で平尾崇典、青山登さんと一緒になり、

青山さんは平尾に「何もしないという整備」という言葉を使っていた。

なるほど、必ずしも手を入れることだけが整備ではないわけだ。

平尾のモーターはパワーがあるからこその言葉ではあるが、

つまりは「欲を出しすぎてもいいわけではない」ということだろう。 

もちろん、峰がモーターに手をつけないのは、

プロペラ調整で戦えると確信しているからだ。

実際、ペラで出足はついているそうで(「だから、

素性の割には悪くない」とも言っている)、

これを武器にして予選を乗り切ろうと、峰はさらにペラと向き合う。

そして、「準優、優勝戦では、壊してしまうのを覚悟で

整備するかもしれないですけどね」とも峰は言った。

予選はポイントを重ねるべく戦わねばならない。

しかし、準優、優勝戦は勝つか負けるかしかない。

そうしたプランを描きながら、峰は今できる最善を尽くしていると

いうわけである。 今さらだけど、深いな、ボートレースは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さてさて、午後のピットで印象に残ったのは

吉川元浩と岡崎恭裕の笑顔である。  

選手の気分は成績、あるいはモーターの調子に左右されるのが

当然で、時にそれがわかりやすくこちらに伝わってくることがある。 

昨年の吉川は、意外な不振をかこつこととなっていた。

事故点過多による部分も大きく、A1級からの陥落も経験したし、

SGでも顔を見る機会が少なくなっていた。

SG戦線に復帰してきてからも、ピットではかつてのような

強烈なたたずまいが感じられず、元気があまりないようにも見えていたほどである。 その吉川が、11R1着後、なんとも爽快な、

そして凛々しい笑顔を見せていたのである。

かつてSGでは常に見られたもの。強い吉川が帰ってきているぞ! 

そう思って吉川をさらに見ていると、笑顔でないときの男っぽい表情が実に力強く、また威圧感をももっているように思えてくる。

これもやっぱり、かつての吉川元浩。吉川自身は何も変わってないと言うだろうが、そんなふうに思えること自体が嬉しいこと。

強い人が強くあることは、歓迎すべきことに決まっているのだ。  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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岡崎恭裕は、ダービーでSG復帰。さまざまな思いを背負って

1年間を戦い、最大の挫折を味わった地元の舞台でSGに戻ってきた岡崎だけに、ダービーでは彼の思い入れが伝わってくる戦いぶりが

見られるかと思っていた。しかし、妙に元気がないように見えて、

心配になったものだった。せっかくのSG復帰戦で、

手応えのないモーターを引いてしまったことが原因だろうか。

とにかく、ピットでの岡崎は精彩を欠いているように見えて、

声もかけづらかったのである。 今日の岡崎も声をかけづらかった。

報道陣に囲まれていたから、である。2着1着と予選前半を快走した

岡崎には誰もが話を聞きたいのが当然で、

彼の周りに集まる人の多さはまさしく好調のバロメーターでもある。

そうして質問を受けているときも、取材から離れて一人でいるときも、岡崎の表情はなんとも明るく見える。

峰竜太や篠崎元志と話しているときにも、

なんともハツラツとしているように思えるのだ。 

もしかしたらチャレンジカップは、

岡崎恭裕が真にSGに戻ってきた一戦、

ということになるのかもしれない。

 

 

 

 

 

(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=石野、岡崎 TEXT/黒須田)