BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――特別な一日

 グランプリ最終日の午後イチ、ピットは非常に落ち着いている。静かという感じではない。優出を逃した面々が、最後の戦いに向けてしっかりと準備を進め、もちろん優出組も着々と動いている。ただ、落ち着いている。やはり今日は特別な一日。数時間後に迎える1年で最も劇的な瞬間に向けて、誰もが穏やかにその時を待っている、という雰囲気だ。思い出せば、例年、グランプリの最終日はこんな雰囲気だったと思う。
 まず、磯部誠が本体整備をしていたことを報告しておこう。といっても、そこまで長時間ではなかったので、点検が主だったかもしれない。昨日の痛恨のピット離れ遅れ。その原因を探るための点検で、つまり今日は二の轍を踏むまいと万全を期しているのだろう。整備前に挨拶を交わしたが、声は非常に力強かった。失敗を引きずっている様子はない。

 ほかにボート回りにいたのは平本真之。といっても大きな作業をしてはおらず、装着をしっかりとチェックしつつ、プロペラゲージの整理に入った程度。関係者に次々と声を掛けられては、いつも通り元気いっぱいに挨拶を返していて、非常にリラックスして過ごしている様子が見て取れた。

 峰竜太は、序盤の時間帯にはまだ始動せず。朝の特訓後にボートをあげてからはプロペラも外しておらず、ややゆったりと時間を過ごしているようだ。挨拶を交わした程度だが、印象としては、昨日までよりもずっと雰囲気が柔らかい。いったん緊張をほどいている、という感じか。

 池田浩二、茅原悠紀もまた、動き出す前の段階と見えた。ともにエンジン吊りには出てくるものの、ペラ室や整備室には向かっていない。

 それは石野貴之も同様で、始動はもう少し先になりそうな雰囲気。それにしても、石野の落ち着きぶりがまた堂々たるもの。1号艇を自力でもぎ取ったことは、石野に充実した精神状態をもたらしているようだった。といっても、当たり前だが緊張感がまったく見えないわけではない。上條暢嵩と談笑するところを見かけたが、笑みがちょっとだけ浅いようにも見えた。もちろんそれが石野のハンドルを狂わせるとは思えないし、むしろ緊張がまったくないほうが危ういのだと思う。

 シリーズ優出組のほうが、グランプリ組より精力的だ。昨日の準優では足色が一変したように見えた深谷知博が、もういちど本体を外して整備室に持ち込んでいる。磯部同様に短時間の作業だったので、大きな整備はしていないはずだが、気配が上向いたことからといって緩めていないあたりがさすがである。

 前田将太は整備士さんと話し込む姿が。何事かを相談している様子だったが、序盤の時間帯に整備を始めてはおらず、今後の動きが気になるところ。直前情報の確認はしておきたい。

 岡崎恭裕は、そんな前田の様子を見て、歩み寄った。手にはプロペラ。早くも調整を始めていたようだ。かつての岡崎といえば、優勝戦の日は中盤の時間帯までモーターを乗せてもいないということもあったわけだが、最近は動き出しが早い。

 篠崎元志は、整備室の調整所でペラ調整。また、クラシック勝負駆けとなる佐藤翼も、調整を始めている。すれ違いざま、二人とも向こうのほうから挨拶をしてきてくれたのだが、ともにリラックスした雰囲気。佐藤は地元SGがかかっているだけにもっとピリピリしているかとも想像していたのだが、昨日までの佐藤とあまり変化は見られなかった。

 1号艇の関浩哉もペラ調整。かたわらには毒島誠がビタッと寄り添って、アドバイスを送っているようだった。SG初制覇に気合が入る一方、ここから緊張感にも包まれていくはずだが、毒島先輩がうまくほぐしてくれるはず。精神的にも悪くない状態で優勝戦に臨めるはずだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)