ピットの奥のほうで全体の様子を眺めていると、左手のほうに人の気配。毒島誠が地べたにペタリと座って、ストレッチを始めたのだった。足を開いて身体を折り曲げ、さらに上半身をひねって身体をほぐす。毒島は1Rに出走。モーターやボートの準備はとっくに終わっているわけだが、レースの直前に肉体の準備を整えていたというわけだ。
選手にとって、レースは肉体を酷使するスポーツ、もしくは戦いである。だからこうして、レース前にはそれぞれが身体をも整える。もっとも、こんなふうに座り込んでのストレッチはあまり見かけないけど(笠原亮もその一人)。毒島にふと目を止めた篠崎元志が、ニヤニヤしながら「ストレッチ?」と声をかけていた。新鋭リーグ時代から目にしてきた、お馴染みの光景なのかもしれない。
毒島の様子を間近に見ていた場所は、実は整備室前。整備の様子を覗き込み、ピット全体の様子を眺め、ストレッチ中の毒島を発見した、という順番。そのとき整備室にいたのは、まず山田哲也。本体を開いて整備中であった。整備士さんが心配そうに見守っていたが、やはり地元の若手の状態というのは周囲もおおいに気になるところだろう。
隣のテーブルでは山川美由紀も本体整備。思い出す、賞金女王決定戦。大村のピットでは毎朝、本体に手を入れるパワークイーンの姿があったものだ。舞台がSGに変わろうと、その姿勢自体に変化があるわけではない。先ごろ女子初の通算2000勝を達成した山川だが、こうした積み重ねが偉業をもたらしたということは言えそうだ。
奥のほうでは峰竜太も本体整備中だった。今日は11R1回乗り。時間はたっぷり残されている。峰はまだケブラーズボンを着用しておらず、足元も普通のスニーカー。まずはじっくりモーターを整備して、水面に出るのはもう少し先になりそうだ。
さて、毒島も走った1R、勝ったのは今垣光太郎である。初日はまさかの6着2本。早くも崖っぷちに立たされた今垣にとって、この1着は大きい。1号艇とはいえ、決して楽なメンバーではなかっただけに、今垣自身、安堵を覚えていないはずがない。
と思ったら、ピットに戻ってきた光ちゃんは、意外にも顔をしかめているのであった。ホッとした雰囲気もわずかに見えるような気がするが、それ以上に歪んだ顔つきが強く印象に残る。まだまだ機力には不満があるのか、レースぶりに納得がいかないのか、いずれにしても勝者の表情とは思えなかったのだ。予選突破にはまだまだ厳しい戦いを強いられるわけで、手放しで喜んでいるわけにはいかないという思いもあるのだろう。
2Rの勝者も、まるで敗者の表情を見せていた。平本真之だ。馬袋義則との2番手争いを演じた平本は、馬袋を抑え込もうとした2周1Mで先頭を走る茅原悠紀に突進するようなかたちとなってしまい、接触して茅原を転覆させてしまった(不良航法)。ピットに戻った平本は、すぐに茅原のもとに飛んで行って謝罪。顔は激しく歪んでいた。原田幸哉、池田浩二、石川真二らは柔らかい表情で平本を癒そうとし、平本も苦笑いが浮かんではいたが、しかしなかなか罪悪感は消えないようで、目元に笑みは生じなかった。
もちろん危ないレースだったし、平本はおおいに反省すべきだろう。茅原も実に気の毒だった。だが、絶対に前に出るのだという、レーサーとしてのガッツは平本は見せてくれたと思う。仕方ないと言ってはいけないかもしれないが、しかしこういうこともあるのがレースでもある。ここはしっかりと切り替えて、巻き返しに全力を尽くしてほしい! もちろん茅原も頑張れ!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田=毒島、山川 TEXT/黒須田)