BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――「たまたま」

f:id:boatrace-g-report:20171212135622j:plain

 津ピットのボートリフトは3艇しか乗れない。レースが終わると、まず1~3着が先に乗っかり、この3艇が陸に上げられたあとに4~6着の3艇がリフトへと乗せられる。レース後にはハンドルを緩めたり艇旗艇番を外したりともろもろの作業があるわけだが、4~6着の艇もただ待っているのは時間がもったいないので、係留所に接岸して、仲間が係留所まで降りてきて、あらかたの作業をここで行なってしまう。それが左の写真の光景であります。

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212135636j:plain

 今節、すべてのレースでこれを強いられているのが、オール6着の今井貴士だ。今井はまだ、すんなりリフトに向かったことはないのである。同じ1Rに出走した選手のなかでは、吉田俊彦が昨日までは3着以内がなかったが、今日は2着。1R組では、今井のみが凶もまた、係留所前へと向かわねばならなかったのだ。

 そう、今井はオール6着。これはつらい。これはしんどい。今井は当然、意気上がらない様子。控室に戻る際には、激しく顔を歪めて、首をひねったりもしていた。まったく上向かない機力。それを反映したシンガリ負けの連続。心が晴れるわけがないだろう。とびきりの好漢だけに、人と顔を合わせれば笑みも浮かぶが、それが心からの笑みかどうかは別の話。意気上がらない時間を過ごすのは、さぞや疲れることだろう。

 その後、整備室で今井の姿を見た。少しでも上向くきっかけをつかむべく、今井は頑張る! 明日はいち早くリフトに乗っかって、とびきりの笑顔を見せてほしいぞ。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212135650j:plain

 そうそう、今井の先輩である鳥飼眞は、5着街道を抜け出しての2着(2R)。昨日までは今井と同様の動きをしていたわけではあるが、今日は胸を張ってリフトに乗り込んだ。そして、最高の笑顔! 三井所尊春とじゃれ合いながら、ピット内にも響き渡る笑い声をあげていた。今井も鳥飼に続け!

 

ところで、3日目朝の整備室は閑散、がSGでのよくある光景だが、今日はそうでもなかった。整備用テーブルやギアケース調整台に選手の姿がひっきりなしに見えたのだ。

 

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212135704j:plain

 何より驚いたのは、瓜生正義が本体を外して整備室に入ったことだ。ちらちらと見ている限り、大きな整備をしているようには見えなかったが(直前情報はご確認ください!)、瓜生がこの段階で本体に手をつけるのは、珍しいことだ。バリバリ噴いているとき、初日や2日目あたりで点検程度に本体を開けているシーンは何度も見たが、3日目になって、しかも機力上位とは決して思えないなかで、本体と向き合おうとするのは、ちょっとした異常事態ではなかろうか。本体整備はほかに徳増秀樹が行なっており、1Rのレース後には杉山正樹も始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212135724j:plain

 ギアケース調整はケンゴ! 濱野谷憲吾が、厳しい表情で調整を行なっていた。かつて、濱野谷といえばペラ調整専念、というイメージだったが、最近はたまに本体を割ったりもしていて、ギアケース調整をしていたからといって決して驚くことではない。今日は6号艇1回乗りで、なんとかパワーを上向かせようとギアケースに目をつけたか。1R直後には、吉田俊彦も取り掛かっていて、レースを終えてから速攻で調整に向かう姿が印象的であった。

 前にも書いたかもしれないけど、勝負駆けの4日目というのは「闘魂注入!」的なイメージがあるが、3日目もけっこう大事ですよね。3日目にポイントをいかに積み上げられるかが、勝負駆けを左右するのだから、実際は3日目も闘魂炎上の度合いにそれほど違いはない。まして、賞金王へのラストチャンスである今節、3日目だって勝負駆けなのだ。あまりお目にかからない「3日目朝の混雑」は、それを象徴する光景かもしれないと思った次第である。

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212135739j:plain

 さて、昨日の桐生順平には驚いたな~。TOPICS記事に詳しく書かれているが、あんな逆転劇、ありますかね。初日の3着逆転も凄かったが、昨日はそれを上回る。初日に話を聞いた時には、「たまたまです」ばかり口にしていたので、たぶん昨日の件も「たまたまです」なんだろうなあ、と想像していたら、案の定だった。というか、こちらから「昨日もたまたま?」と振ったのだ。即答で「たまたまです」だった。

 それでも、あんな「たまたま」はなかなかないわけで、実際、桐生自身が引き寄せた「たまたま」であろう。何を問いかけても、謙虚すぎるほど謙虚な桐生だが、こちらとしては「凄すぎでしょ!」と言うしかなく、結局、「めちゃカッコよかった!」「いやいやいや」「あんなの見たことない」「いやいや、流れが良かっただけですよ」なんてやり取りが延々と続くのみだった。

 で、そんな会話を交わしながらふと思ったことなのだが、あの逆転劇に手応えを感じながらも、桐生は実は不本意な部分もあるんじゃないかなあ、と思った。桐生としては、1マークで決着をつけるのが理想に決まっているからだ。しかし、あの衝撃を味わった我々は、次から次へとこの話題を桐生に振る。「本当はスッキリ勝ちたいけどなあ」と思いながら、桐生はただただ謙虚になるしかないのではないか。そんな裏読みをしてしまったわけであります。

 まあ、いずれにしても、桐生がすごいことには変わりはない。今日、スッキリ勝った暁には、同じ言葉をかけてみようと思ったのでした。

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171212135756j:plain

 で、2R、見事に3連勝を決めた森高一真。勝利者インタビューを受けるために着替えて出てきた森高を、後ろからとんとんと肩を叩いて親指をぐっと突きだすと、「あ、たまたま」。いや、こちらもそうは思えない快勝&強烈パワーだったわけだが、もしかしてボートレーサーの「たまたま」にはめちゃくちゃ深い意味が込められているのかもしれませんね。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩=今井 黒須田=作業、瓜生、濱野谷、森高 TEXT/黒須田)