ピットに足を踏み入れての第一感は、「ちょっと緊張感高まった?」。芦屋のピットは広いので、12人の気合がいきなり空気感に影響を与えるかどうかは微妙なところだが、そう感じてしまったのは確かなこと。先入観ですかね。思えば、昨年の大村では、僕は途中参戦なのだった。賞金王決定戦は何度か取材しているが、賞金女王決定戦をハナから取材するというのは初めてなのである。それもあって空気の微妙な違いを感じ取った、ということなのかもしれないし、単に昨日より冷えて寒いので背筋が伸びているだけかもしれない。
なにしろ、そのときピットにはベスト12の姿はなかったのである。どこにいたかというと、半数が整備室。装着場の決定戦組のボートのうち、日高逸子、三浦永理、谷川里江、寺田千恵のものから本体が消えていた。早くも本体を割っているのである。今朝のスタート特訓は全員が参加していたので、そこで得た感触をもとに本体に手をつけているのであろう。その後には、守屋美穂も本体を整備室に運び込んでいた。そして、モーターは普通にボートに乗っかっていたが、山川美由紀の姿も整備室にはあった。11、12Rまでは時間がたっぷりある。だがトライアルはたった3戦しかなく、その意味では時間がない。気になる点があれば、迷うことなく手をつける必要があるわけである。
ほかに、長嶋万記の姿も整備室にあった。作業は、ギアケース調整。昨日の会見では手応えの良さを語っていた長嶋だが、外回りの調整ができているのはアドバンテージになっているか。調整を終えて、ギアケースを装着すると、長嶋はそのまま着水へと向かっている。決定戦組で水面に出て行ったのは長嶋が一番乗り。係留所での作業へと移っていった。これが2R発売中のことであった。
で、長嶋がいちばん端の係留所で調整をしているところに、平山智加が向かっている。座り込んで長嶋と話し込む平山。その後、平山も長嶋につづいて着水をしている。ペラを調整していたようで、その感触を確かめるために試運転に出ようとしていたわけだ。
海野ゆかり、鎌倉涼もペラ調整。高橋淳美の姿は序盤のピットではエンジン吊り以外では見つけられなかった。金田幸子もペラ調整をしていたようだが、まあ、実にマイペースですな、今日も。ペラと工具を手に、リズムをとるような動きをしていたが、踊ってるのかと思いましたよ。いったん控室に戻り、ふたたびボートに向かっていく金ちゃんは小走りだったのだが、これが明らかに歩くより遅いスピード(笑)。ふつうに歩いたら? やっぱりこの人、ある種の大物なのである。レース直前になって、これがどう変わるんだろう? 女子王座優勝戦のときは、あまり変わってませんでしたけどね。
決定戦組の多くが整備室で本体整備をしているなか、シリーズ組も整備に忙しい。遠藤エミが決定戦組に混じって本体を割っていたし、整備室の様子をメモ代わりに写真に収めたら、隅っこに小野生奈も写っていた。遠藤はもう後がないからな~。今日の1号艇1回乗りは必勝の一戦。その戦いに向けて、遠藤は着々とパワーアップをはかっているのだ。小野もまた、地元での戦いに悔いは残したくないだろう。
2Rでは、魚谷香織が豪快につけまいを決めて先頭ゴール。昨日のリズムダウンを巻き返すかたちとなった。よくあることだが、ピットに戻ってきた魚谷に笑顔はない。凛とした表情で、エンジン吊りの輪の中心にいる。むしろ、周囲の選手のほうが笑っていたりする。仲間が会心のレースで勝利したことは、心弾むものだろう。落合直子が、魚谷の顔を覗き込んで、親指をぐーっと立てる。そこでやっと、魚谷の顔には笑顔が浮かぶのだった。もちろん、魚谷にとっても、会心の勝利だろう。
それを見てから喫煙所に。芦屋は装着場の隅っこにこそっと喫煙所が設けられていて、ここは選手も使うんですよね。いつもけっこうドキドキしながら、選手がいないのを見計らって一服しているのだが、今日はそこに池田浩美があらわれた。あ、そうだ。昨日の2R、2マークでの逆転の全速ターン、めっちゃカッコ良かったですよね。それを池田に伝えてみた。
多くの選手が、こうした質問には「たまたまです」と返してくる。池田もそうだった。そのことよりも、反省の言葉が先に出てくるのも同じ。池田はインでスタート遅れて先んじられたことを悔やみ、それでもなんとか残してみせたことの理由を分析してみせ、そして「たまたまあの展開になった」と締める。そう、池田の理想の勝ち方は、堂々たるイン逃げだったに決まっているのだ。
それでも、あのターンはエクセレント! そしてエンターテインメントであった。それは素晴らしいことである。というわけでさらに押すと、池田はようやく笑顔を見せた。今日は2号艇。浩美らしい豪快なツケマイが見たいぞ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)