BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

TOPICS 2日目

ECLIPSE

 

 光と影。ドリーム組を太陽とするなら、A2・B1レーサーは月、か。いつもは太陽の眩い光の中でつましく姿を隠している月が、今日はその太陽光をほぼ完璧に遮った。しかも、コース・決まり手ともに実に多彩で、いつものドリーム組のお株を奪うような変幻自在な勝ちっぷりだった。

 

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1R、A2の喜井つかさが3コースまくり差し。2R、A2の水口由紀がイン逃げ。3R、A2の谷川里江が5コース一撃まくり。4R、B1の西村歩が2コースから「恵まれ」で1着。5R、A2の今井美亜が4カドから一気まくり。6R、A2の福島陽子がイン逃げ。7R、A2の高橋淳美が2コースからズッポリ差し抜け。8R、B1の滝川真由子が6コースからありえないような差し切り……

 

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8個の“月”たちが、すべてのコースから、「抜き」以外のすべての決まり手で真っ先にゴールを駆け抜けた。そして、1レースに1個ずつ散りばめられた“太陽”は、すべて本来の光を発することなく闇に消えた。過去の女子王座の2日目で、これほどドリームレーサーが苦戦を強いられたケースは、ちょっと記憶にない。しかも、A2・B1級相手に……。

 皆既日食。

 

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 何レース目だったか、私の頭にこの言葉が浮かんだ。いつもは脇役に追いやられている昼の月が、太陽の光を遮断し続けている。月という怪しい物体の存在感を、太陽を覆い隠すことで人々に知らしめている。目の錯覚ではあっても、月と太陽が同じ大きさなのだと知らしめている。皆既日食、エクリプス。ピンク・フロイドの『エクリプス』という曲も脳裏に浮かんだ。大人の事情でまんまの歌詞は書けないが、ざっとこんな感じだ。

「この地球上にあるもろもろすべての物、コトはすべて太陽によって調和を保たれているけれど、今、その太陽は月によって覆い隠されている」

 

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 古来、皆既日食は天変地異や下克上の兆しとして、人々や権力者たちから畏れられてきた。今日のこの“現象”が、果たして最終日最終レースにどんな影響を与えるのだろう。短期決戦の予選だけに、この日食の影響力は小さくないようにも思えるのだが。

 

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 9R、A1レーサーの岸恵子が逃げきって、この長い長い皆既日食は幕を閉じた。だが、6人のドリームレーサーは、最終12Rまでひとりも勝ちきることができなかった。しかも、山川美由紀は公傷で帰郷し、田口節子はよほど予選ボーダーが下がらない限り①①着でも準優進出戦には届かない。今節の超巨星と見られていたふたりが、事実上脱落した。天変地異が起こっても不思議ではない流れが、今シリーズには息づいている。

 

福井支部の逆襲

 

 我らが内池久貴先生の名著『福井の逆襲』にちなんでこんなタイトルを付けてみたが、ちょっと大げさすぎるか(笑)。なんたって、今節の福井支部レーサーは、今井美亜ちゃんただひとりなのである。逆襲というより、孤軍奮闘ですな。

 

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 昨日は3コースから豪快にまくって地元ファンの喝采を浴びた美亜ちゃん。先に書いたように、今日の5Rでも4カドのトップスタートから、有無を言わせぬ握りマイで内3艇を引き波に沈めてしまった。諸先輩を力でねじ伏せての開幕2連勝。後半の11Rはさすがに家賃が高く5着に敗れたが、それでも予選ランク6位は天晴れの一語だ。

「富山出身の異色レーサー」として知られる美亜ちゃんだが、実は「ボート界屈指の穴女子レーサー」でもある。たとえば、去年の2月21日~今年2月20日までの1年間(手元のデータが古くてすいません)、美亜ちゃんの2連単アタマ回収率は、なんとなんと132%! つまり、この1年の間、美亜ちゃんの2連単アタマ総流し舟券をひたすら盲目的に買い続けるだけで、32%の利ざやを得られたのである。これほど儲けられる金融商品、今の時代ではありえないだろう。しかも、1号艇~5号艇まで、すべての枠番で100%を超えている。新人選手は「5、6号艇だけ回収率100%オーバー」みたいなムラのあるタイプが多いのだが、美亜ちゃんの場合はどの枠番でもムラなく期待値が高いのだ。一応、そのデータを記しておこう。

★美亜ちゃんの枠番別回収率

①…134%

②…167%

③…132%

④…113%

⑤…206%

⑥…23%

 

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 6号艇はご愛嬌として、では、なぜこれほど美味しいレーサーなのか。答えは簡単で、「人気と実力のギャップ、知名度が低くて軽視されてきたが実はその評価以上に強い」ということに尽きる。「福井の今井? 知らねーな、そんな選手」なんてバカにしていた全国のファンを、こっそりギャフンと言わせ続けてきたのだ。

 最近のデータは調べていないが、もちろんここ半年で今井美亜の知名度はぐんと上がったことだろう。そして、大舞台でのこの派手な活躍である。もはや「艇界屈指の穴レーサー」とは一線を画す“人気商品”に出世してしまった感はあるな。

 

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 だが、しかしだ。これから準優進出戦~準優~優勝戦と敷居がぐんぐん高くなっていけば、話は別だ。花形レーサーが鈴なりの中に混じれば、まだまだ知名度や人気は諸先輩に見劣る美亜ちゃんである。そんな大舞台でこそ、穴女子レーサーの面目躍如。またまた全国のミーハー舟券オヤジたちをギャフンと言わせるに違いない。優勝戦の5号艇あたりで回収率206%の実力を出し切ったとき、はじめて福井の人気商品(へしこ、ソースカツ丼、せいこがに、越前おろしそばetcetc)と肩を並べるのだな(笑)。うん、そういう意味では、やはり今節の美亜ちゃんは「福井支部の逆襲」と呼ぶべき存在なのかも??(photos/シギー中尾、text/畠山)