BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――勝負駆けのゆくえ

 

 

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 混迷を極めた準優ボーダーは、最終的には5・00。昨日の勝負駆け情報の記事で、ボーダーを5・00と想定したのは畠山で、お見事です! というか、ボーダー当てても偉くないので極撰当てろよ。というのはともかく、ボーダーラインをめぐっての争いはなかなか熱かった。

 12Rを迎えた時点で丸岡正典が18位で4・83。12Rは4名が当確で、1名が1着でも届かず、ただ一人、吉田俊彦に逆転の目があった。条件は3着以上。吉田は3号艇。なかなか微妙なノルマである。吉田自身がそれを把握してレースに臨んだかどうかはわからないが、報道陣の目は一斉に吉田に注がれることになった。トシかマルか、どっちだ……。

 ピットのあちこちで感嘆の声があがった。吉田は1着で勝負駆けを乗り切ったのだ。まくり差しの鮮やかさも見る者を唸らせた要因だろうが、きっちり自力で勝ち切って18以内を掴みとったのだから、お見事。言うまでもなく、3着を目指して走る選手はいないし、青山登さんが言った「3着でいいと思うと、大きく負けるものなんだよ」というのもその通りだろうが、それでもこの1着は価値が高いと思う。レース後の吉田は、わりと淡々としていて、おそらくは予選を突破したこと(しただろうということ)への安堵も大きかったと思われるが、こうしたかたちでボーダーをクリアしたことの充実感もあったように思う。

 

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 一方、結果待ちだった丸岡は残念無念。10Rは4カドから自力でまくって攻め、それが抵抗を受けて飛ばされたことで着を落としている。己がやるべきことはやった、という思いはあったにせよ、もろもろの悔恨は残っているだろう。もっとも、そこで悔しさをあらわにして見せるような丸岡ではなく、淡々としているところしか僕は見かけなかった。まあ、宿舎で同期あたりにからかわれたりして、苦笑を満面に浮かべてはいるんだろうけど。

 

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 結果的に、18位となったのは石渡鉄兵である。まずは第一関門クリアですね、と声をかけると、石渡はバツが悪そうに身をよじりながら、苦笑した。勝負駆けだった10Rは4着、本人としては不本意な結果である。だから、勝負駆けをクリアしたというより、なんとか残ることができたという感覚のほうが強かっただろう。素直に喜んでいいかどうかは微妙なところだ。

 しかし、石渡には大目標があるのだ。もちろん地元グランプリへの出場。そのチャンスが残ったのだから、どんなかたちでの予選突破でもいいのだ。だって、前検日からあんなに気合が入っていたじゃないですか。

「バレてました?(笑)やっぱりなんとしても出たいですからね。明日も頑張ります」

 きっと明日は、さらに断固たる決意がにじみ出るような表情が見られるだろう。そう、勝負駆けはまだ続く。続く限り、石渡鉄兵の胸の炎は燃え盛ったままなのである。

 

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 予選トップは太田和美だ。12R後の表情が印象的だった。ものすごく安直な表現を使うと、複雑な表情。2着で予選トップという状況を知っていたかはともかく、その瞬間にはやはり敗れた悔恨のほうが強いのだと思う。まして1号艇だ。優勝への王道ともいえる「予選最終走=逃げ→準優=逃げ→優勝戦=逃げ」の3連発。これまでにも何度も、このルートをトレースしてタイトルを手にした者を見てきた。というか、ダービーで見たばかりですね。8Rを勝って予選トップに立って、12Rは1号艇、という状況を見て、僕は今回もそのパターンを見ることになるのだと予感したほどだ。しかし、そうはならなかった。そりゃあ、表情は複雑になって当然である。

 ただし、4日目を終えて、あと2回逃げれば優勝、という状況は変わらない。エース機を手にした太田和美だから、やってしまうんだろうなあ、それを、と思えてしまいますよね。明日からはさらに、一発逆転勢、あるいはボーダーの少し上にいる粘り込み勢がとびきりの気合で戦いに臨む。太田の12Rでいえば、ベスト6に入ってグランプリへと熱望している井口佳典、ボーダー近辺で追われる立場の今垣光太郎、一発逆転の田中信一郎、寺田祥、石渡鉄兵が太田の外にずらりと並ぶ。それでも、太田はブレることなく己のなすべきことを果たすであろう。……そういえば、太田だって「ベスト6のボーダー上にいる粘り込み勢」なんですよね。

 

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 女子は明日が勝負駆け。勝負駆け情報にもあるとおり、大混戦です! 現時点の予選トップの鎌倉涼だって、大敗すれば優出を逃しかねない(というか、その確率が高い)。すでに優出が苦しくなった選手が3分の1いるけれども、それ以外の選手で安心できる者は一人もいないし、諦める者だっているはずがない。

 そんななかで、唸らせられるのは、平山智加だ。2日目に不良航法で減点を喰らってしまったときには、さすがの平山でも今回は苦しいかと思えたものだ。低調機シリーズなのだから、機力も決して万全ではない。クイーンズクライマックス当確の身としては、逆転を狙う選手のモチベーションに押されてもおかしくはない。ところが、やはりこの人は一枚も二枚も上なのである。尻上がりに成績を上げていって、予選8位にまで浮上した。もちろん、優出の勝負駆けに残った。格が違うのである。

 明日大敗すれば、当然のことながら予選落ちとなるわけだが、何か想像しづらいんだよなあ、その姿が。明後日の11Rには、どこかの枠番に平山智加の名前がある。そんな気がしてならない。11Rを逃げ切った平山の顔は実に明るかった。いやらしい意味ではなく、色気があった。まさに強者のレース後である。それを明日も明後日も見せつけるのではないか。そんな想像には現実感がおおいに伴っているのである。

 

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 あと、日高逸子もやっぱり凄いっすね。11Rは6着に大敗し、レース後には淡々としているようでありながら、視線に険があるのである。だからこそ、いつまでもグレートマザー、いつまでも一線級なのだろう。予選6位。勝負駆け状況としてはまったくズレた物言いなんだけど、日高と平山は優出当確と思えちゃったりするのですが、どうでしょう。

 で、時間が経ったあとのキャピキャピ感も、いつまでもグレートマザー。三浦永理とレースを振り返っている様子が、キャッキャと嬌声をあげているようにも見えてしまうんです。三浦とは20歳以上も離れてるのに、それを感じさせない。日高逸子は、いろいろな意味で、まぎれもない偉人なのである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)