BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@グランプリ――決戦の朝

 

 

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 今までいかに悲壮感に包まれていたか、ということがよくわかった。

 優勝戦の朝、ボートを磨いたり、エンジンを磨いたり。それを「こういう作業ができるってのはいいことでしょ? 整備しなくて済んでるってことだから」と言っていたことがあった。でも、もしかしたらあれは、自分を落ち着かせるための行動だったのでは? そんなふうにも思った。

 写真は、ペラの装着をしようとしていた徳増秀樹に話しかける白井英治である。優勝戦の日、こんな顔の白井をこれまでに見たことがない。こんなにも落ち着いてSG優勝戦、しかもパーフェクトが懸かったグランプリ(賞金王)ファイナルの朝を過ごせるとは、これまでを思えば不思議で仕方なかった。ボートもモーターも拭かない。ペラもついたまま。ただゆったりと、柔らかい表情で過ごしている白井。白井にとってタイトルを獲ることがどれだけ大きいことだったか、タイトルを獲ったことがどれだけ大きなことだったか、よくわかった。

 2Rのエンジン吊り後に控室へ戻るところで顔を合わせた。白井がニッコリ笑う。こっちも笑う。聞こうと思っていたことはあった。初のSG優勝戦1号艇。完全優勝。師匠が成し遂げていないグランプリ制覇。だが、お互い笑いながら顔を見合わせていたら、言葉が出なかった。僕はただ白井の腰のあたりをポンポンと叩きながら、白井はただニコニコと笑いながら、ただ見つめ合っていただけだった。がんばって。ありがとう。結局口にした言葉は、お互い5文字だけ。あのメモリアル(MB記念)優勝戦の朝以上に、白井英治は大丈夫だ、と思った。

 

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 おそらく、いちばんリラックスしているのは白井英治だ。ただ、他の5名も肩に力の入ったところは見当たらなかった。

 1R発売中に石野貴之が試運転をしていた。優出インタビューを終えてピットに戻ると、即座に水面へと向かったのだろう。1Rの試運転タイムが終わると、石野はボートをいったん陸に上げていて、そのときの表情は今節ずっと見せてきた凛々しすぎるものだった。やはり石野は気合満点! だが、その後に石野は、これまではそれなりの結果を出したレース後のような、柔らかい表情になった。もちろん、気合満点は変わらない。だが、ここまできたらあとは優勝戦に全力を尽くすのみ。勝ち上がらなければならないという気負いがない分、こうした表情が顔を見せるのだろうか。いずれにしても、雰囲気は素晴らしく良い。

 

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 井口佳典も、やはり表情は鋭い。プロペラの翼面に見入る視線は、怖いほどである。その井口が、ボソリと言ったのである。

「ハンサムやなぁ~」

 俺? マジ? と振り返ったら、篠崎元志がいた。なぁ~んだ、元志かぁ。そりゃそうだわなあ。

 と思ったら違った。プロペラが「いい顔をしている」というのだ。つまり、井口の思い通りの形に叩けている、ということである。それにしても、その表現が面白い。と、まえくみこと前田くみ子さんが言うと、「僕らにしてみたら、アートやからね」。なるほどなあ。水面に出てみなければ手応えはわからないとはいえ、いい叩きができたというのは心強い。そして、そんな表現ができる井口は、やはり穏やかに過ごしているというべきだろう。

 

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 あとの3人も、いずれもペラ叩きで姿を見たが、もちろんペラに向き合う際の視線は鋭くても、気負った様子はない。太田和美はまったくもって自然体で、今日もまるでブレずに時間を過ごしている。1号艇だったら、「やっぱり太田の優勝だろうなあ」と確信していたところだ。菊地孝平は、2R終了後にペラ室に入り、調整を始めている。それまではまったく装着場のほうには姿を見せなかったから、のんびりと時間を送っているということだろう。いや、あるいは控室でゾーンに入った表情を見せているのか。この男ならありうる。

 

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 もっとも若く、グランプリ初体験の茅原悠紀も、特に緊張にまみれてはいなかった。ただ、ペラ調整に少しでも時間をかけたいということなのか、装着場を移動する際は駆け足である。今日はレースをすべて終えた選手のモーター返納作業があり、同支部の選手などがヘルプをする。1Rでは先輩の平尾崇典が今節ラスト走を走り、レース後の返納には茅原も参加する。それが終わると猛ダッシュ! チルト3度並みの伸び足だ。ペラ室に駆け込むと、息も切らさずにペラ叩き。6号艇からでもなんとか一矢報いんと、武器を磨いているわけである。

 そんなふうに時間が流れていた今年のメーンイベントの朝。ゴングが鳴るのが待ち遠しい!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)