山崎智也はやはり山崎智也だった。
智也のSG初優勝を初めて間近で見たのは06年オールスターだった。
あのときには「勝つべくして勝つ」とはこういうものなのかと教えられた気がしたが、今回も同じだった。
「1号艇のプレッシャーを楽しもうと思っていて、今日、1日楽しかったです」
勝利後の智也は1日をそう振り返ったが、まさにその言葉どおりだったといえる。
今日1日を通して、“特筆すべき部分”はほとんどなかった。やや不機嫌そうな顔で作業を続け、仲間たちが傍に来ると表情をゆるめる。ひたすらその繰り返しに近かった。
それでも10R後、ボートを展示ピットに着けて引き上げてきた智也の顔は、ほとんど無表情に近いながらも、「やることはやった」と書かれたようになっていた。
そうして1日を過ごして、レースでは結果を出してみせる。
まさにスーパースターである。
「ボートの話題でお酒を飲んでください」
表彰式で言ったこの言葉にしても、ほぼ同じことを06年にも口にしていた。
9年前も今年も、同じ日の別の場所では“競馬の祭典”が行なわれていたからこその言葉である。
このレースが危なげない完勝だったのかといえば、そうとはいえない。
ピットでも「差さったか!?」という言葉が見ている選手たちのあいだで飛んでいたが、太田和美の差しは強烈だった。
レース後には太田本人も「角度的には完璧」と言っていた。
智也と合流すると、まず握手をして「見えた?」「見えた! やばい~と思った」という会話をかわしていたほどだ。
会心の差しを繰り出せたからこそ太田は、レース後、納得の表情を見せていたわけだ。
レース後、もうひとり“大納得”の表情を見せていたのは服部幸男だ。
レース前から、充実した1日を過ごせたのだということは、その表情が物語っていた。レース後、ピットに引き上げてきたときにも、優勝者なのかと勘違いされてもおかしくないような晴れ晴れとした顔をみせていた。
そして、最後にモーター格納をする際にはモーターに対して一礼もしていた。
「結果」も伴ってほしかったのはもちろんではあるが、やはり服部はどこまでも格好いい。
レース後、いちばん厳しい顔をしていたように見えたのは池田浩二だ。今日のレースの鍵を握っていたのもまた池田だといえるだろう。
7R後、優出メンバーがそれぞれ単走で試運転をしている中、池田はプロペラゲージを片付けていて、その表情は読み取りづらかった。
だが、9R後に見かけたときには、その表情からはっきりと迷いが消えていた。その後に行なわれたスタート特訓でも動かず、本番でも結局、6コースからレースをすることを選んだ。足に対して手応えを得られたからこそ、腹を決めてその選択をしたわけだ。
そしてまた、足が良かったからこそ、レース後の厳しい顔になったのだろう。
動いていれば結果は違っていたか。
その悔いが少しだけ残ったということだったのかもしれない。
1日を通して、桐生順平も気になった。
桐生もまた7R後にゲージを片付けていたが、9R後の特訓が終わると、そのゲージを引っ張り出して、再びプロペラ調整を始めたのだ。
ただ、それは、納得がいかなかったからではなく、足に納得ができていて、上積みを求めての調整だったのだ。その調整後には、「いいと思います」とも言っていた。
10R後、展示ピットにボートを着けて、最後までボートの傍を離れなかったのも桐生だった。やれる限りのことはやる、という姿勢がそこから見て取れる。
こんな男が強くならないはずがない。
これから桐生は、手がつけられないほど強くなるのではないか。
そんなことが予感された1日でもあった。
丸岡正典に関しては、いい意味で、智也と同じように特筆すべきことがあまりなかった。
丸ちゃんペースで1日を過ごして、納得の調整をしたうえでレースを迎えている。
本人は昨日、「このあと、出られるSGの見通しがないので、このレースが今年の勝負駆け」だと言っていたが、何度でも丸ちゃんの勝負駆けは見てみたい。
レースが終わったあと、上瀧和則選手会長が「安心して見ていられる優勝戦だった」と話していた。その言葉どおり、ツワモノたちの戦いがそこにあったわけだ。
それを制した智也は、やはり艇界が誇るスーパースターだ。
今夜の酒を飲みながら、他の競技のことを話題にしなければならない理由はまったくない。
(PHOTO/池上一摩 TEXT/内池)