5秒間の激闘
12R優勝戦
①山崎智也(群馬)17
②太田和美(大阪)17
③服部幸男(静岡)19
④丸岡正典(大阪)25
⑤桐生順平(埼玉)27
⑥池田浩二(愛知)25
枠なり3対3のスリットで、ダッシュ3艇が完全に後手を引いた。内3艇はほぼ横一線。こうなれば、イン智也と2コース太田のターンマーク争奪戦になる。まくりきれる隊形ではない。早々に腹を決めたであろう太田が、スッと艇を開いてマイシロを取る。全速差しの構え。一方の智也は、脇目も振らずに1マークへ直進している。太田が智也よりわずかに早いタイミングで初動のハンドルを入れた。鋭角の放物線を描いて1マークを掠める。
ここから5秒だ。逃げる智也と差した太田と。角度的にもスピード的にも、太田の舳先が入ったように見えた。いや、事実入った。入ったが、その瞬間に太田の舳先がウイリーのように浮き上がり、それがまた着水したときに大きく上下にバウンドした。ズルッと舳先が抜けて、智也の通算8度目のSG戴冠が決まった。ありえない推測だが、太田は1マークの出口で舳先が入ると確信したとき、あえてウイリーで加速しようとしたのではないか。新たなターンを試そうとしたのではないか。うん、やはり呆れるほど荒唐無稽な推測だな。が、あの舳先の浮き方は、あまり見ないほど極端なものではあったな。
優出インタビューでは「チルトゼロにしてまくりに行きたい」と宣言し、実戦では早々に艇を開いての全速差し。1号艇の智也の心を揺さぶる作戦だったかどうかはわからないが、太田の勝負師としての強さを改めて感じるレースでもあった。
おめでとう、智也。これでオールスター(笹川賞)は5優出3V。さすがのお祭り男だ。黄金のヘルメットも様になるが、やはり智也にはこのSGタイトルがもっともよく似合う。
レース後のウイニングラン。眼前の臼島に夕陽が落ちる中、智也は大観衆の声援に対して手を振り続けるのではなく、何度も何度も頭を下げた。スターレーサーとして高みから接するのでなく、感謝の念を伝えたいのだろう。ルックスもフラミンゴターンもド派手だが、実は謙虚で誠実な男なのだと私は思う。
「ヨッコニシ! ヨッコニシ!」
スタンドに陣取っていた8人ほどのグルーブが、いきなり“横西コール”を連発した。頭を下げていた智也が、ズコッと後方にのけぞって嬉しそうに笑う。その応対がまた自然でいい。
「トッモッヤ、トッモッヤ!」
横西コールが、智也コールに変わった。折り返して戻ってきた智也はまたニッコニッコの笑顔で、今度は空高く右手を突き上げて左右に大きく振った。その軍団の周辺を見ると、老人もオッサンもオバサンも若者も子供たちも、そのやりとりを嬉しそうに見つめている。財布の中に61円しかない私も、なんだか妙にほのぼの幸せな気分になってしまう。
いい絵だなぁ。
しみじみ思う。さらに広く見回すと、大村の新しいスタンドにはすべての世代の人々がほぼ均等な割合で、ほぼみんな幸せそうに笑っていた。ひとつの小さな村のように。ボートレースとレース場が、ごくごく自然に人々の心の中に浸透しているのだ。大村の、小さな村のアットホーム・ボートレース。ちょっぴりメルヘンチックなこの光景に、水上の智也の姿がチーズのように溶け込んでいた。(photos/チャーリー池上、text/畠山)