BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――微笑ましくもある

f:id:boatrace-g-report:20210527212538j:plain

 係留所でモーターを動かしてニードル調整をしていた岡崎恭裕が、モーターを止めるといきなり全力で駆けだした。装着場へと続く渡り橋を一気に駆け上がる岡崎。なんだなんだ? 岡崎が向かったのはボートリフト。試運転を終えた上田龍星がちょうど上がってきたところだった。岡崎はその様子を係留所で見ていて、リフトの周辺に選手が誰もいないのに気づいたのだろう。エンジン吊り要員が不在とあらば、自分が駆け付けるしかない。と、猛ダッシュで上田のもとに走ったのだった。水の上では先輩も後輩もない、とはよく言ったものだが、こういう局面でも実は先輩も後輩もない。いや、後輩が駆け付けるのは当然として、先輩もキャリアうんぬんは関係なく後輩のために動く。こういうシーンを見ると、これがボートレーサーだよなあ、と思わされるわけである。

f:id:boatrace-g-report:20210527212655j:plain

 そうこうしているうちに下條雄太郎も試運転からあがってきて、岡崎は返す刀でこちらのエンジン吊りもヘルプする。その様子を整備室で発見したらしい竹井奈美や、上田と下條と足合わせをしていた松本晶恵もここに加わるのだが、それでも岡崎は率先してボートを運んだり、架台を用意したりと八面六臂。そこにいたのは全員が岡崎より後輩で、誰もが岡崎に恐縮するわけだが、岡崎はまるで意に介さず、クールにてきぱきと作業をこなしていくのだった。ものの1、2分で作業が終わると、やっぱりクールに係留所に戻っていく岡崎。後輩たちが一斉にありがとうございましたと頭を下げて、その場は解散となっている。

f:id:boatrace-g-report:20210527212739j:plain

 で、上田のモーターを整備室まで運んでいこうとしたのは松本晶恵。それを見た上田は大慌てで「大丈夫です、大丈夫です」と松本から架台を奪おうとする。しかし松本は「大丈夫、大丈夫」と引かず、しばしどちらが運ぶかの押し問答(笑)。上田としては先輩の手をわずらわせたくはないわけで、結局は松本が引くこととなった。素敵な先輩たちだなあ、とお人柄に感じ入ると同時に、上田は冷や汗の連続だろうとちょっと同情(笑)。上田もいずれSGの舞台で後輩が山ほどいる立場になるわけで、そのときに後輩たちを助けてあげてください。

f:id:boatrace-g-report:20210527212810j:plain

 10Rの発走が迫った頃だろうか、平高奈菜が自艇のもとにやってきて、ボートを磨き始めた。すると、何かに気づいたのか、タオルを操縦席の後方に突っ込んで、手を動かしている。タオルを引き上げると、これがびっしょびしょ! 絞ったら、まるで水を張ったバケツに突っ込んだ後のように、タオルからは水がじゃばじゃばとこぼれ落ちるのであった。9R終了後、エンジン吊りの際にクリーナーで水分は吸い取ったはずなのに、まだこんなにも溜まっていた!? それほどまでに、レース中に水をもらってしまっていたということか。平高は何度かタオルを操縦席に突っ込み、絞って水じゃばじゃばを繰り返す。すると、それを遠くから見ていた守屋美穂と鎌倉涼が駆け付ける。守屋は舳先と架台の間に挟んでボートを傾ける木製の器具を手にしており、共同で平高の操縦席の水分排除に取り組んだのだった。こんなこともあるんですねえ。平高は明日1号艇。水をもらわずに逃げ切りたいですね。

f:id:boatrace-g-report:20210527212832j:plain

 10Rのエンジン吊り。新田雄史のヘルプに駆け付けた菊地孝平が、太田和美のヘルプにやってきた石野貴之に声をかける。二人は仲良しで、石野にインタビューしたときに菊地の話題になったら、「キクチ」と呼び捨てにしていたほど(笑)。二人の間で、そんな冗談めかしたやり取りがあるんでしょうね。で、菊地が石野に二言三言言うと……。

f:id:boatrace-g-report:20210527212856j:plain

 ん? 菊地はゴルフの指導してたの?

f:id:boatrace-g-report:20210527212919j:plain

 ナイスショット!
 というわけで、12R出走のふたり、レースが近づいてもリラックスしている様子だったのでありました。12Rは菊地1着、石野3着。二人とも、足にも余裕があると見たがどうか。

f:id:boatrace-g-report:20210527212942j:plain

 などといった微笑ましくもある光景を眺めつつも、レースは進む。10R、桐生順平が逃げ切り。快勝と見えたが、ピットに戻ってヘルメットを脱いだ桐生は浮かない表情だった。しかも何度か首を振って、不満を表明。勝ったはいいが、機力的には納得していない? 伸びはいいと証言している選手もいるだけに、出足方面への不満だろうか。桐生の見ているところというのは、きっと目先の勝利のみではない。

f:id:boatrace-g-report:20210527213155j:plain

 11Rを逃げ切った篠崎仁志も、レース後は高揚感が見えなかった。初日は大きい着を獲っているので、ここで気を緩めている場合ではない、といったところか。篠崎はエンジン吊りを終えると、対戦相手に歩み寄って頭を下げた。それがやけに丁寧かつ深々としたもので、やけに印象に残るのだった。後輩の仲谷颯仁に対しても同様でした。

f:id:boatrace-g-report:20210527213222j:plain

 それにしても、峰竜太には実に余裕を感じるのである。11Rは4コースから差して2着。ピットに帰還すると深川真二らとヘルメット越しにも届いてくる声量で談笑しているのであった。いや、談笑というと語弊があるかもしれず、レースを振り返り合っていたのだろうが、峰の表情や声色はやけに明るく、いい雰囲気なのである。野中和夫、山崎智也につづく3人目の「ファン投票1位で優勝」、十二分にあると思います。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)