BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――超荒れ水面のドラマ

 

 

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 プロペラ調整を終えた松井繁が、苦い顔をしながら水面を見つめた。ピット内に響く、ゴォォォォという低い音。水面は激しく波立ち、ナイター照明は不規則に舞う雨粒を照らし出す。この水面をこれから走らなければならないのだから、王者が渋面になるのも当然。松井は水面を睨みつけながら、係留所へと向かった。

 今日は、本当に大変な水面だった。選手は対戦相手よりもまず、荒れに荒れる水面と戦わねばならなかった。条件はみな同じとはいえ、楽な状況ではなかった。全員がその悪条件の中での戦いを余儀なくされたわけである。事故が起きなくて何よりだった!

 

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 11R、1号艇の今垣光太郎は2着。先マイはしたものの、赤岩善生に差され、峰竜太にまくられ、白カポックを活かすことができなかった。それでも最終ターンマークで赤岩を逆転。この水面のなかでは悪くないレースぶりだったはずである。

 だが、ピットに戻ってきた今垣の様子は、ちょうど1カ月ほど前、準優1号艇を活かせなかった三国のレース後と大差なかった。ガックリとうなだれていたのだ。17年ぶり地元SGで1号艇ながら優出を逃したあのときとは、状況はまるで違っている。なのに、露骨に顔をしかめ、肩を落とす光ちゃん。単なる悔恨なのか、この日に1号艇を使わねばならなかったことへの嘆息なのか、あるいはその両方か。いずれにしても、思い通りのレースがまるでできなかったのは、確かなようだ。

 

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 もっとも、ここまでハッキリと悔恨を浮かべていた選手はあまり見当たらなかった。足色にしても、この水面ではよくわからん、というのが本音ではないか。思い通りのターンができなかったとしても、ミスなのか、水面に足をとられたのか、判断がつきかねる。もちろん波巧者かどうかということも関係しているだろう。その件については、石渡鉄兵が本体整備をしていた、ということが象徴的か。江戸川鉄兵の異名をもつ石渡は、これ以上の荒れた水面を何度も何度も経験している。7Rも追い上げる航跡は彼らしいものだったと思う。それでも整備をするのだから(ピストンを手にしてました)、彼はこの水面のなかでも何が足りないかを感じ取ったかと思われる。まあ、これは石渡ならでは、なのではある。

 

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 10R、1マークを豪快にまくり切った井口佳典。しかし、2マークで茅原悠紀の突っ込みを許して後退。最終的にはなんと5着まで後退してしまった。JLC解説者の池上哲二さんは「かわいそうに……」と同情していたし、この水面ではあそこで無理に突っ張ると危なかっただろう。

 ただ、そんな水面だからなのか、井口はピットに戻ると意外とサバサバしているのだった。エンジン吊りでは周囲の選手と苦笑い含みの会話を交わしている。茅原が頭を下げに来ても、逆に茅原に対して気を遣うかのように、大きな動きで首を横に振っている。うむ、今日のゴンロクは仕方ない。明日からの巻き返しを期待します!

 

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 そんなわけで、茅原は勝ったのにいまひとつ浮かない表情をしていたわけで、JLC解説者の青山登さんには「素直に喜べない」と言ったそうである。いやいや、あれもまた勝負のアヤ。もちろん、こんな水面だから、という思いはあったにせよ、あそこに突っ込んでいった茅原だって勇気が必要だった場面のはずだ。そう、これもまた荒れ水面が生んだひとつの局面。静水面になったあかつきには、強烈ニュージェネターンを決めて、スカッと笑え!

 

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 爽やかな笑顔をちゃんと見せていたのは、峰竜太だ。ピンピン発進。しかも11Rの走りが見事だった。まず、この水面なのに、1マークでツケマイに行った。さすがに届かないだろうと思ったら、バックでは今垣より半艇身ほど前にいた。しかし3艇併走のいちばん外だから、2マークは不利だろう。と思ったら、腰が抜けそうなまくり差しで突き抜けた。この水面状況のなかでは、文句なし、100点満点のレースだろう。笑ってなきゃおかしいですね。

「和美さん、行きましたよ!」

 峰は引き揚げる途中の太田和美(5号艇でした)に、胸を張った。峰がまくって行けば、太田に展開が生まれるのはたしかで、そんな牽制球を太田は峰に投げていたのだろうか。峰はちゃんとまくって、しかも勝ったのだから、反り返った言葉が出てくるのは自然だ。

 

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 太田はニカーッと笑った。

「締めまくりちゃうやないか!」

 あのツケマイでは、太田には差し場ができにくいよね。内を一気に叩く締めまくりなら、また違う展開になったのは明白だ。太田はそれを軽口にするかたちで、峰の勝利、レースぶりを称えたわけである。

「あれでお腹いっぱいっすよ~」

 と、今度は峰は身をよじる。太田の思いを感じ取ったのか、少し照れてる感じでもあったな。太田としては、本来は悔しい場面。それでも爽やかな会話が成立したのは、これもまたこんな日だから、であろうか。

 

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 で、大笑いしていた原田幸哉と西山貴浩の写真もどうぞ。チョークスリーパー!? エンジン吊りの前に、じゃれ合っていた二人です。カメラを構えていたら、川上剛が「おっ、撮られてる!」とはしゃぐ。西山は「あっ、撮ってくれましたね!」と嬉しそうに指をさしてきた。はい、撮りました。西山としては「ピットに横行する西山イジメの証拠写真」とかにしたいんだろうけど、どう見たって、「誰からも愛される西山と楽しい仲間たち」ではないか。ニッシーニャも幸哉も、今日はお疲れ様でした。明日からは静水面で思う存分、水上のパフォーマンスを!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)