シリーズ企画・鳴門行き最終便(了)
矢折れ刀尽き……
3Rの市橋卓士、5着。この瞬間、地元レーサーなき鳴門SGオーシャンカップが確定した。開催が決まってからの1年数カ月、ホーム水面のない徳島A級レーサーだちはジプシーのように転戦しながら、「いざ鳴門オーシャン」を目指してきた。うーーん、残念! おつかれさま、という言葉しか思いつかない。ボート関係者さま、近い将来に鳴門でのリベンジSG、できればメモリアルでの最開催をよろしくお願いしますっ!!
THE勝負駆け①予選トップ争い
同期のツバ競り合い
8R、昨日までの暫定トップ・魚谷智之が3着でゴールを通過した瞬間、予選トップ争いは魚谷を含む4選手に絞られた。
★暫定ボーダー/魚谷智之の8・00
★瓜生正義/9R①着=8・00も、着順点の差でトップ確定
★毒島誠=同じく9R①着=8・17でトップ確定
★重成一人=9Rの瓜生・毒島が②着以下で、しかも10Rで1分47秒7より速いタイムで①着だった場合のみトップ確定。
10R6号艇の重成は気の遠くなるような極厳条件なので、ほぼほぼ9Rの結果次第でトップが決まる。そんな状況の中、9Rのファンファーレが鳴った。瓜生は4号艇で、毒島が5号艇。
4カド瓜生がトップ狙いのまくりを打てば、毒島にもチャンスが生まれるかも。
そう思って観ていたら、先に仕掛けたのは3コースの下條雄太郎だった。下條は下條で、シビアなボーダー勝負駆けを胸に秘めている。スリットから伸びなりにじんわりと絞め、このアタックを警戒したインの坪井康晴が大きく流れた。ぽっかり空いた内水面を、瓜生が差し抜ける。毒島は全速でぶん回してのまくり差し。どちらが先頭を奪うか。奪ったほうが、第26代のグランドチャンピオンにグッと近づく。握って攻めた毒島はホーム追い風に流され、最内を差した瓜生だけがグイグイ伸びた。そのまま力強く2マークを先取りして、今シリーズの予選トップが決まった。やっぱり強い瓜生正義。直接対決ではなかったものの、9年ぶりのSG制覇に燃える同期の魚谷をハナ差で差しきった格好だ。もちろん、予選1位=優勝ではないのだが、このアドバンテージは小さくない。2013年のダービー以来、2年8カ月ぶり8度目のSG制覇が見えてきた。
THE勝負駆け②準優ボーダー争い
サバイバル・ブラザーズ
最近のSGは勝負駆けデーでもすんなりの逃げが多いのだが、今日は大乱戦の連続だった。もっとも過酷かつ凄絶な争いになったのは、やはりメインイベントの11Rだろう。それぞれの、自力で生き残るための必要十分条件はこうだ。
11R
①峰 竜太…③着
②篠崎元志…②着
③菊地孝平…②着
④篠崎仁志…④着
⑤桐生順平…④着
⑥吉川元浩…①着相手待ち
1~5号艇はひとつ下の着順でも可能性があったが、各選手とも最低ノルマとして上記の着順を念頭に置いたはずだ。で、この面々を見ていて、やはり気になるのは篠崎元志・仁志の名前だった。兄弟でのサバイバル直接対決。このふたりの行く末は、「A揃って準優へ、Bどちらかが準優へ、Cふたりとも脱落」、すべてのパターンがありえた。残酷な“兄弟喧嘩”とも言えるし、この大舞台での直接対決は出来すぎエリート兄弟の輝かしい逢瀬にも思えた。
で、この11R、まずはスリットから力強く抜け出したのは、3コースの菊地だった。②着が欲しい菊地は、すぐに絞めはじめた。が、同じく②着条件の元志が、身体を張ってブロック。今節の元志は、まくった切った張ったの連続だ。インの峰は、この2艇の勢いに押され気味だった。スリットで放ったか、やはり出足~行き足が足りなかったか。去年の当地メモリアル優勝戦では峰が逃げて元志が差してのデッドヒートになったが、それだけのパワーが今節の峰にはなかった。元志が獰猛にまくりきる。峰が引き波にハマり、菊地が外へぶっ飛んだ。元志だけが飄々と、ひとり旅。この男、やっぱすげえ。
さあ、先頭以外は大混戦。内3艇の大競りを見て、ダッシュ3艇がズボズボズボッと一斉に差し抜けた。なかなかに壮観なシーンだ。真っ先に差した仁志が飛び出すか、と思いきや、桐生と吉川がこれを内外から一気に追い抜いた。完全なパワー負け。
さすがに兄弟ワンツーはないわな、出来過ぎだわな。
と思ったものだが、今度は2周1マークで桐生と吉川が小競り合いだ。その間隙を縫って、弟がスパーンと突き抜けた。あれよあれよの兄弟ワンツー決着! まさに出来過ぎブラザーズ!! 兄が自力で攻めきり、弟が展開を突いての予選突破というのも分相応というか、らしいというか。ゴール後、バックを颯爽と流す兄を、弟が全速力で追いかけた。半艇身ほど弟の舳先が掛かったところで、ふたりのヘルメットが向き合った。5秒ほども見つめ合っていただろうか。こ、こりゃやばいって。
なんだなんだなんだ、このメルヘンはっ!???
心の中でツッコミつつ、いい光景を見た、とも思った。本場でしか見ることのできない、実にラブリーで爽やかでメルヘンな光景だった。うん、こんなシーンを我々はこれから何度も見ることになるのだろう。明日の準優は別線になったが、あさって実現しても不思議じゃないな。どっちが先頭かはともかくとして。
おっと、シビアな勝負駆けを書くつもりが、なんだかハートウォーミングな路線へと脱線してしまった。で、妙に心がほっこりしちゃったので、今日はここまで。す、すんませんっ!!(photos/シギー中尾、text/畠山)