BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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浜名湖ダービーTOPICS 初日

 

不透明なドリーム

 

 12Rのドリーム戦で、今まで見かけたことのない珍事(少なくとも私は見た記憶がない)が起きた。選手たちがスリットラインに向けて発進してから、航走を中止してピットに戻って行ったのだ。なぜ、そうなったのか。できるだけ整理してお伝えしよう。

 

 

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 まずは発端。1号艇の白井英治がピットアウトで後手を踏んだ。で、2号艇の茅原悠紀は締め切ればインを奪える態勢に見えたが、ゴリゴリとは行かなかった。やや慌てた感じで、白井がエンジンを噴かして小回り防止ブイを回った。勢いがついた分だけそのターンは流れ、茅原の艇尾に追突した。その瞬間、舳先が茅原のエンジンに食い込み、オイルを送るチューブに支障を与えた(らしい)。喩えていうなら、血管が詰まったような状態になったわけだ。燃料が止まったから、茅原のエンジンはホーム水面に入ったあたりで停止した。茅原は何度も必死に掛け直し、一度だけブルンッとエンジンが唸ったが、それは最期のオイル一滴による断末魔の叫びだったのだろう。

 このとき、おそらく審判団は茅原のエンジンが再始動するかどうか、ハラハラしながら凝視していたことだろう。で、「無理だ」と判断し、茅原の艇を「事故艇」と定義づけた。そして、瞬時に「ピットアウトのやり直し」について定められた第14条が適用された。その適用部分を抜粋すると、こんな一文だ。

 

第14条 待機行動において(略)審判委員長が事故艇その他障害物を除去する必要があると認めた場合(略)一旦、競技を中止し、再度、ピットアウトからやり直すことができる。

 

 この規定に当たるとして、選手間で「黄色」と呼ばれる航走中止の指示が出され、5人の選手たちはそれに従った。審判委員長の判断そのものは確かに第14条に則っているように思えるし、迅速的確な対応だったかもしれない。ただ、「選手たちがすでに発進してしまった」という部分が実に稀有な出来事であり、ファンからすれば大なり小なり理不尽な思いが働いたはずだ。

 出来事を続けよう。エンストした茅原は選手責任外の出遅れ欠場として救助艇に曳航された。当然だが、2号艇に関する舟券は全額返還になった。ピットに帰還した5艇は、再びファンファーレとともにピットアウトした。この“本番レース”では3号艇の峰竜太が3カドに引き、しかもその発進位置は通常の4カドのポジションに近いものだった。で、その珍しい3カド攻撃は不発に終わり、白井が逃げきって本命サイドの決着となった。レース後、白井は賞典除外の処分を受けた。記者席に配布された文面は

「待機行動に於いて、2号艇に追突し2号艇を欠場いたらしめた事により賞典除外処分とする」

 

 

 

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 以上が、エピソードのあらましである。これに対して何をどう思うかは、人それぞれだろう。現段階での私の見解はといえば、まず、先にも書いたとおり、法律的には不備はなかったと思う。だから審判団を責めるつもりはまったくないのだが、いざ視点を「舟券を買っていたファン」に移すと、複雑な思いがつきまとう。今まで、今日の茅原と同じような状況、タイミングでエンスト艇が発生したのに、そのままレースを続行したケース(エンスト艇は「出遅れ」扱い)を何度も見てきた。そのときのエンスト艇は誰が見ても「事故艇」であり、ならば第14条がもっと発動されてもよかったはずだ。まあ、あるいは今日の裁定は、過去の“判例”とは一線を画す裁定=英断だったのかもしれない。

 しかし、あのタイミングでレース(厳密には待機行動)を中止されて5艇立てになっても……という思いは残る。ほぼすべてのファンは、「6艇がしっかりスリットを通過する」という前提にもとにレース展開を推理し、舟券を買う。今日の一度目の待機行動は、茅原がエンストしたとはいえ他の5艇は「6艇立ての腹積もり」でそれぞれコース獲りを決め、スリットラインに向かった。このままスリットを通過したほうが、ファンとしてはこと舟券に関しては納得ができたはずだ(実質1周1マークだけの寂しいレースになるのだが)。

 それが、直前に待ったを食って5艇立てで仕切り直し。ちょっと待てよ、である。たとえば4カド想定だった峰が、スローの3コースになったら……まるで別物のレースでしょ。「4カドの峰は買いだが、スロー3コースはむしろ消し」というファンは少なくないと思う(私もひのひとりだ)。その「むしろ消し」の状況を、エンスト艇の出現によって勝手に押し付けられたら、たまったものではない。「まったく想定と違う舟券になってしまったのだから、茅原だけじゃなく峰(←つまりは全選手)の舟券の返還も認めろ」とファンには問い詰める権利があると思う。

 

 

 

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 それを知ってか知らずか、今日の峰は“幻のレース”とまったく同じようなコース獲り&起こし位置から発進した。何も考えずそうしたのか、「ファンは俺の4カド(みたいな発進)を期待していた。だから、同じところから行く!」という深い思慮があったのかはわからないが(笑)、とにかく峰のこの行動がファンの「??」な思いをかなり緩和させたと思う。でもって、断然人気の白井が勝ったのも、緩和につながったはずだ。もしも「峰がスロー3コースでスタート勘が合わずにドカ遅れ、4カドの智也が締めまくりで白井ぶっ飛び大穴」なんてことになったら、ちょっとした騒動になっていた可能性もある。まあ、今日のレースでも十分にちょっとした騒ぎではあったが。

 まとめよう。今日の裁定について、審判のジャッジは法的に間違いではなさそうだし、それを責めるつもりはない。ただ、過去の通例とはいささか異なる裁定であり、ファンからすればかなり理不尽にも思えるタイミング&措置だったのだから、審判サイドから法的な正当性と「5艇立てになることへのお詫び」みたいなものを2度目のピットアウトの前に、しっかりファンに伝えるべきだったと思う。今後、同じようなケースがあったら、是非ともそうしてもらいたい。レース中ならいざしらず、今回のケースはそうするだけの時間があったのだから。

 後ろ向きのことばかり書いても仕方がないな。実のところ、私は今日の「スリット直前の寸止め」を見て、「この裁定がファンの間で普通に認知され、まかり通るようになったりしたら、フライング直後の再レースという可能性もありえるのではないか」なんて思ってしまった。まあ、この発想そのものがまた賛否両論になりそうなので、今日はこのくらいにしておこう。ではでは。(photos/シギー中尾、text/畠山)