9R終了時点、つまり残す予選はあと1走の時点で、池永太は19位だった。池永の運命は、まさに10Rに懸かっている。同支部同期の西山貴浩はそれを聞きつけて、報道陣にそれを確認。「次の10Rで太の人生が決まる」と口にしている。人生、とはちと大袈裟ですけどね(笑)。
とはいえ、池永が浮上するためのカギを握っているのは、10R2号艇の新田雄史のみ。他の5人は準優当確か、勝っても18位以内には入れない。新田の成績だけが焦点なのだ。条件は3着以上。したがって、池永と西山はただただ新田の走りを注視することに。レースは1号艇の長田頼宗が逃げ切っているのだが、そちらには目もくれずに、新田だけを見守っていた。
その新田の勝負駆けが熱かった。1マークは意表を突く2コースまくりで、これは届かなかったものの、バックは瓜生正義と2番手併走。ここに松井繁も加わって、超強豪2人との壮絶な争いとなったのである。2周1マークで、2番手は瓜生でほぼ確定の状況。あとは松井との対決だ。新田は外から叩きにくる松井に抵抗し、2マークでは松井を大きく弾き飛ばす。松井は消波装置まで流れてしまい、新田が3番手をゲットした。レース後の新田は、とにもかくにもやり切ったという表情。3着勝負を激戦の末にクリアしたのだから、ひとまずのノルマはクリアしたと言える。
ただ、ひとつだけ心配だったのは、2周2マークが不良航法をとられないかということ。最近はあれでとられるケースが多いし、リプレイを見ながら篠崎仁志も「これはとられるかも……」と呟いている。それもあってか、池永も新田が3着を獲り切ったのを見ても落胆をあらわにはしていなかった。西山も同様だ。ひょっとして……。
新田、セーフ! 減点なしで勝負駆け成功。そして池永は残念なことに次点に終わってしまったのだった。もちろん、違反を願うという気持ちはなかったはずだが、次点の悔しさについてはたっぷりと味わったことになる。
勝負駆けというとまず、こうしたボーダーをめぐる悲喜こもごもが焦点となるわけだが、この10Rでは、逃げ切った長田頼宗を無視している場合ではなかった。この逃げ切りで予選トップを確定させたのである。戦前は、悪いけど、間違いなく伏兵の評価だった。数々のSGレーサー、さらに昨日からはグランプリ1st組が揃うなかでは、記念未勝利の身としてはその評価で仕方ないだろう。そういえば、SGや記念での長田は、その実力の割には、あまり人気にならないから美味しい(笑)。そんな長田が、シリーズとはいえ、予選トップに立った。長田自身、それを自覚していただろう、レース直後は目がキラキラと輝いて見えるほど、爽快な表情を見せていた。その後は報道陣に囲まれてもいて、主役の気分をしっかり味わったことだろう。
あと2回逃げて、タイトル初戴冠なるか。ちなみに、長田は今年優勝3回。そして来年のクラシックは地元平和島開催だ。そう、長田は地元SG勝負駆け! モチベーションは高いはずだぞ! 長田にとって準優、そして優勝戦はまさに人生を変える戦いかもしれない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)