BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――Winner face,Loser face

 

 

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 敗者の表情というのは、大まかに分けると3パターンか。

①顔を歪める

②表情を硬くする

③苦笑いを見せる

 今日もっとも多かったのは③。田村隆信、松井繁、深川真二がこれにあたる。

 深川の場合は、ピット離れとコース獲りを含めて、この表情になったのだろう。まずピット離れでずるりと下がって、回り込みを強いられたこと。その勢いで、おそらくは想定になかった2コースとなったこと。深川の本来の持ち場とも言えるのだが、今日に限っては深い起こし位置は想定していなかったのではないか。それでもスタートを決めて準Vとなったこともまた、苦笑いを深めるものだったかもしれない。

 

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 松井は、上瀧和則選手会長と言葉を交わしながら、苦笑いを浮かべた。いや、むしろ笑顔に近かったか。ねぎらいの言葉をかけた上瀧会長は、うなずきながら笑顔を返した。トップレーサー同士だからこそ共有できる心境というものがきっとある。

 

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 攻め手となった田村は、「惜しかった」という気持ちが苦笑いにつながったはずだ。これもおそらく想定外の3コースだが、深くなった内に対しての小カドとも言うべきポジションになった。イケる、という思いも浮かんだだろうか。レース前、田村は「やっぱり今日は力が入っちゃってます」と笑っている。リラックスして、冷静に、と心に決めたが、それでもやはりSG優勝戦は特別だ。内が深い3コースになったとき、さらにもう一段、力が入った? そのことに対する苦笑いというものもあるかもしれない。

 

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 ②は、意外なことに守田俊介だった。6号艇という枠番。おそらく本人も想定していたはずの6コース。それもあって、この敗戦をもっとサバサバと受け止められるだろうと想像していたら、ピットに戻ってきた守田の表情は硬かったのだ。対岸のビジョンに映し出されるリプレイを見つめる間も、顔つきは変わらない。のほほんとしたキャラを演じる守田も、その本質はやはり勝負師なのだと改めて感じた次第だ。

 

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 そして、①はやはり中野次郎。②になった瞬間もあるし、①になったりもして、という感じ。やはり、もっとも悔しさを募らせるのは、地元SGの優勝戦に臨んだ次郎であるのが自然なことだろう。メダル授与式ではガッツポーズを見せているが、本音では拒否したかったはずのポーズだと思う。

 帰り際、解説者の廣町恵三さんらと話し込む次郎がいた。お疲れ様でした、と声をかけ、次郎はこちらを認めた瞬間、もういちど顔を歪めて悔しそうな表情を見せた。僕が何を言いたかったかを察したのだろうし、それに対する答えとしてその表情になったのだと思う。僕は会話が成立したと思って、頭を下げてその場を去った。今節、いい気合を見せてもらったぞ。次の機会には、笑顔の次郎に会えるのを期待する。

 

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 さて、優勝した選手の表情と言えば、「満面の笑み」か「涙」である。坪井康晴はこれが3度目のSG制覇。「涙」よりも「笑」だろう。いや、ピットに戻った直後の坪井を遠目でしか見られなかったので、実際はどうだったかわからない。坪井が表彰式に出ている間、笠原亮が突然「ああっ、ウルウルしてるでしょ!」とおどけて声をかけてきた。俺が!? あっ、実はそっちがウルウルしてたんじゃないの!? などとふざけ合いつつ、去年のチャレンジカップで10年ぶりのSG制覇を果たしたあとにたまらず涙を流した当の笠原を思い出した。坪井もこれが7年4カ月ぶりのSG制覇なのだ。初めて地元以外のプールでSG優勝。少しウェットな気分になってもおかしくはない。

 

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 それでも、やはり坪井は笑顔を絶やさなかった! 笠原、伊藤将吉、山田雄太の出迎えを受けて、坪井はただただ笑っていた。着替えを終えた松井も坪井のもとにわざわざ向かっているが、王者の祝福にももちろん笑顔が浮かんだ。坪井のニコニコ顔って、なんとも人の良さそうな感じですよね。坪井にインタビューする際など、これが見られるとなんとも心が和やかになる。それをかなり長い間見続けて、僕は和みっぱなしだった。だから亮くん、僕はウルウルなどしてませんよ。ニヤニヤはしてたかもしれないけど。

 優勝者会見で思い出したのだが、坪井は過去の2Vとも、すんなりと勝ったわけではなかった。初Vの06年グラチャンは、1マークで流れていて、差されてもおかしくない場面だった。08年チャレンジカップは、吉川元浩に迫られる場面があった。坪井曰く、ともに自分のミス。だからチャレンジではガッツポーズもできなかったという(その分も今日は力強いガッツポーズを見せた!)。完勝でのSG制覇は今回が初と言ってもよく、それもまた坪井の笑顔に深みをもたせただろうか。

 

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 これで坪井は文句なしのグランプリ当確。昨年グランプリはトライアル1stで敗れ、シリーズでも予選落ちし「惨めだった」と振り返るが、今年はベスト6でのグランプリ行きも、このまま行けば有力だろう。グランプリといえば、09年の優勝戦1号艇。あの6着大敗の悔しさは、今も坪井の胸の奥底に刻まれている。もし、今年の暮れに黄金のヘルメットをかぶることになれば……そのときは笑顔とともに、「涙」も見られるかもしれない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)