多摩川の前検航走は独特。多くの場は、各班ごとにスタート練習→タイム測定、もしくはタイム測定→スタート練習とセットで行なうのだが、多摩川の場合はまず班ごとではあるが全員が一気にタイム測定を行ない、それが済んだ後に一気にスタート練習が行なわれる。他の場のように、1~5班が前半で6~9班が後半、前半と後半の間には数十分の後半組の試運転、というようなこともない。今日であれば1~8班まで、一気に終わらせてしまうのである。
と、断定的に書いたけど、多摩川ってこうだったっけ? なにしろ多摩川の一節取材は12年3月のレディースチャンピオン以来、約7年ぶりなのである。当欄でいえば、まだSports@Nifty時代で、スポナビ時代は一度も来ていない。7年前のことはすっかり忘れちまってるわけである。というわけで、なかなか新鮮な前検の光景、でありました。
それ以外のことについては、通常の前検との間に違いがあるわけではない。なにしろほんの2週間ほど前に、1年で最も緊張感が高まるグランプリのピットを体感したばかりなので、それに比べると穏やかな空気が漂っているようには思えるが、それでも選手はもちろん真剣なまなざしになり、それぞれの作業にあたっている。入りや抽選では笑顔あふれていた白井英治も、いざ前検が始まればこの表情。勝負に臨んでやるべきことは何も変わらない。
赤岩善生も、スタート練習を終えた後にはいつも通りに整備室にこもった。SGでも一般戦でも、やることは何も変わらないし、一般戦で緩めるようなこともありえない。それが赤岩の信条だ。メンバーは豪華だが、これもまた一般戦。ポリシー通りに、まずはモーターと向き合い、赤岩流の調整を積み重ねていく。まあ、ポリシーうんぬんというよりは、これが赤岩の自然体なのだろう。
スタート練習とタイム測定の前から、プロペラ修正室が満員御礼となるのも、よく見る光景。持ちペラ制が廃止され現行のプロペラ制度になって以降、まずはもらったまま試運転や前検を走ってみるタイプと、ハナっから自分の形に叩き変えるタイプに大別される傾向にあるが、どんな舞台でも同様ということだ。今日、ハナっから叩いて、しかも最もギリギリまで粘っていたのは青木幸太郎と塩田北斗。二人が水面に降りたのはけっこうギリギリで、試運転は行なっていない(タイム測定とスタート練習だけ、ということ)。二人とも明日は前半戦の1回乗り。朝から忙しく、初日を迎えることになるか。
前検後、苦笑いは井口佳典。坪井康晴に声をかけられて苦笑い一発、中野次郎には自ら話しかけて苦笑い二発。次郎はのけぞって笑っていた。手応えはもうひとつだったか? このあたりは、企画レースらしさ、だろうか。グランプリなら、ピットに戻った途端、不機嫌な顔になっていたんじゃないかな。トーナメントでは6号艇を引いてしまったことも、関係があるのか。グランプリでは気合パンパンだったわけだが、こんな井口も魅力的。もちろん明日のレース前には、強烈な目つきとなっているのだろう。
今回は一般戦とはいえ、全国発売の注目レースなので、ピットには報道陣も多い。カメラマンもSG並みに動員されていて、水面へ向かおうとすればレンズが一斉に向けられ、シャッター音が響く。そんな状況に戸惑っているように見えたのは、大谷健太。こんなピットはおそらく初体験だろうから、まあ仕方ないところだ。SGではこんなんは当たり前。このバトルトーナメントで経験し、それをまた味わうために早くSGに来てくださいね!(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)