自分への怒りか。それとも自分を強く責めているのか。あるいは犯してしまったことを激しく悔いているのか。なぜあんな事態になってしまったかを思い起こしているのか。関係者への懺悔の思いか。何より、こんな形で優出を逃してしまったことへの強い悔恨か。
もしかしたら、そのすべてが鎌田義の心中に渦巻いていたかもしれない。それほど、鎌田の表情はどこまでも硬く、また複雑であった。
14年グランプリシリーズ準優でフライングを切り、しばらくSGを離れた。久しぶりに戻ってきたと思ったら、また準優F。この先の展望がまるで見えなくなる、痛恨という言葉では足りない勇み足。12Rのエンジン吊りにあらわれた際にも、まだ表情には陰が差し、苦悩はちょっとやそっとでは消えないようだった。
今節はとにかく、気合が体からあふれていた。それが、久々にSGを走れる喜びの発露でもあっただろう。鎌田とここまで言葉を交わさなかった節はこれまでにはない。声を聞かずとも、鎌田の心中は存分に伝わってきていたのだ。その気合が、ほんの少しだけスリットをオーバーしてしまった。またしばらくSGが遠のくことになるが、この気合がその先につながるものと思いたい。心折れることなく、またSGのピットで会える日が来ると信じたい。
勝ったのは池田浩二。池田も、松井と似たような感じで、雰囲気の良さがある。会見も、時にぶっきらぼうなこともある池田なのに、やはり松井と同様、饒舌であった。
今日一日プロペラと向き合い続けた池田は、方向性のようなものをようやくつかんだようである。それを池田は「やっとスタートラインに立った気がします」と表現している。スタートラインにも届かなかったのに準優1号艇というのが凄すぎるわけだが、それに関しては白井に似た感じか? ともかく、そのスタートラインという言葉が、やけに印象に残ったのだった。なお、スタートラインに立てたから、明日はいい調整ができるだろう、とも言っている。やっとスタートラインという焦燥感もないし、明日一日あればいいところに持っていけるという確信を感じたし、これは池田の完調宣言ではないのか、と思ったりした。つまりスタートライン自体が相当高いレベルに設定されていると思われるのだ。
会見などを終えて、モーター格納作業にあらわれた池田を見て、その表情の穏やかさにも驚かされた。ごくごく自然体で、優出の高揚感や高まる気合もうかがえない。ここまで透明感のある池田はあまり見た記憶がないだけに、これが優勝戦をどんなかたちで彩るのか、楽しみになってきた。
2着は坪井康晴。ピットには嫣然たる微笑をたたえて戻ってきている。これが坪井の場合、苦笑いなのか安堵なのか歓喜なのか、ちょっとわかりにくい。そのいずれもが、坪井の好人物ぶりをあらわす柔らかいものなので、見分けがつきにくいのだ。
坪井の言葉からは、トップレーサーが何を目指すのか、というあたりのものを紹介したい。今年はクラシックを勝っており、早くからグランプリ行き当確を決めていた。しかし坪井は言う。「6位以内と考えると、余裕はないです」。グランプリが2ステージ制となり、まずベスト18を目指すのが基本だが、本音はアドバンテージが大きい6位以内でグランプリに行きたい、というのがこのクラスの心情なのだ。グランプリ行きが決まっているからお腹いっぱい、はありえない。ひとつでも上の順位でグランプリに参戦するべく、貪欲に戦い続けるのだ。坪井は優勝戦6号艇。言うまでもなく不利枠だが、思いは変わらない。もともと6コースは得意な男だ、決して侮ることはできないのである。