天候が変わった。雨が降ったり日差しが差したりと不安定な空模様なのだが、湿度がギュンと上がり、気圧がガクッと下がった。「回転が上がらない」という気候条件だ。それもあるのだろう、ペラ室は早くから混み合っていた。優勝戦メンバーもそうでない選手も、木槌で金属音を響かせている。
いちばん奥の隅のほうでは平石和男が叩いていた。マスクをしているので、表情はうかがえないが、黙々とペラと向き合っている。入口近くには今村豊。足が劣勢というなかでのこの天候変化はどんな影響を与えるのか。今村もかなり集中した表情で叩いており、周囲にジョークを飛ばしている様子もない。
1R展示後、ボートリフトが上がってくると、三角哲男が乗っていた。朝特訓のあとはボートを上げず、調整や試運転をしていたのだ。その展示後には、江口晃生ら一般戦組が試運転に向かったのだが、それと入れ替わるように三角はいったん切り上げた。表情は明るめに見えたので、ある程度の手応えはつかめただろうか。
一方、小畑実成は大きな作業をしていなかった。モーターの装着状況を丁寧にチェックし、時折モーターを磨いたりもしていた。以前、白井英治がSG優勝戦の朝にモーターを磨いていたことがある。「これができるってのは、いいことでしょ」と言って笑っていた。つまり、ペラ調整や本体整備にじたばたする必要がない=パワーには不満がない、ということ。小畑の穏やかな表情を見ながら、そんなことを思い出していた。
田頭実については、姿を見かけられなかった。装着場に置かれたボートを見ると、モーターからプロペラが外されている。ペラ調整中かと姿を探しても見当たらなかったのだ。1Rには九州勢が出走していないので、エンジン吊りにも出てこなかった。もちろんもう少し粘っていれば顔を見ることはできただろうが、ようするに急ぎの調整が必要ないということは顔を見なかったことで逆に確認できたように思う。
というように、優勝戦メンバーはそれぞれの動きを見せているわけだが、雰囲気的には昨日までと同様、穏やかなものだ。しかし一人だけ、明らかにピリピリしていたのが西島義則だ。顔の険しさがもう、尋常ではないのだ。プレッシャーを感じているようには思えない。ガチガチに緊張しているとも思えない。とにかく「入っている」としか言いようがないのである。機力ではなく、気力は間違いなく節イチである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)