BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――素晴らしき進入

 

 

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 1Rで珍しい進入があった。枠なりになりそうな流れの中、4号艇の山口達也がまだ艇を横に流しているのに、3号艇の青木玄太がハンドルを右に切ったのだ。3カド!? いや、違う。この流れでは、山口が3コースだ。そして山口は「マジ!?」みたいな感じで3号艇を一瞥し、自分も艇を後ろに引いている。山口が3カドで12/4356だ。

 結果は、4カドでもぐいぐい伸びていた山口がまくり切って1着。マークする格好になった青木は絶好の展開になったが、2号艇の大池佑来に絡まれて3着までだった。

 

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 インの海野康志郎は、かなり驚いたことだろう。JLC解説者の松野京吾さんに声をかけられて、「なんで3と4が入れ替わってるの!? マジかよ! と思いましたよ」と苦笑い。4号艇の3カドはまったく想定になかったはずで、驚いて当然だ。しかも、伸びる山口の3カドだから、インは苦しい。苦笑いを浮かべるしかない。

 

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 で、この進入になった立役者(?)、青木はなぜこの進入を選んだのか。まず、「展示でブルが入った。これではスローではもたない。できればダッシュに引きたい」という感覚があった。もちろん、3カドもアリだっただろう。さらに、6号艇の佐藤翼はまるで進入争いには加わらずに初っ端から外に出ており、5号艇の渡邉優美もかなり早く後ろに引いていた。「記念だと5号艇も6号艇も緩めないから、ダッシュを選ぼうとして早々と引いたら6コースに出されちゃいますよね。でも今日は5も6もいなかった」。その状況を見て、青木はダッシュに引いたのだ。もちろん、カド受けなら叩かれて3着もないであろうほど山口の伸びがいいのもわかっていた。つまり、「山口が3カドに引いて、そのマークとなるであろうことも覚悟のうえで、ダッシュに引く」駆け引きを青木はしていたのだ。

 結果にはつながらなかったが、これは大絶賛ものだ。これぞボートレースである。なかなかの理論派、と昨日書いたが、進入でも青木は固定観念に引きずられたりしない。いやあ、青木玄太、面白いぞ! 予選突破は厳しいが、後半も、残り2日も、その理知的な戦略を楽しませてもらおう。

 

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 その1Rで2着の佐藤翼。これで後半につながった。後半は1着勝負! ヒリヒリする勝負駆けに臨む。佐藤も「ピン勝負だから、わかりやすいですよね」と笑った。ただ、佐藤はF2持ちで、後半は5号艇。これは楽ではない。6号艇だった1Rで早々とアウトに出たように、無理はできない立場だ。ということで「進入とかでは欲は出しません。でも調整では欲を出します」と後半への準備に取り掛かった。その2走目は12R。たっぷり時間があるぞ! とことん調整に精を出して、決して有利とはいえない戦いに臨む。

 

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 今、目の前で予選暫定トップに立っていた桐生順平が5着に敗れた。これで俄然有利になってきたのが暫定2位の松田大志郎だ。9Rは1号艇で、逃げ切れば6走52点。もし桐生が後半で1着を獲っても6走50点までなので、予選トップ争いでは松田に分がある状況となった。その状況を知る由もない1R前に、松田に「逃げ切れば準優1号艇ですね」と声をかけた。松田は笑いながら、「でも楽な1号艇じゃないですからねえ」。5号艇に曲者・山口達也がいるのだ。もちろん、それでも松田は逃げる気マンマン。桐生大敗を目の当たりにした今、さらに闘志を掻き立てているはずだ。「逃げ切れば予選トップ(実際は、宮地元輝が連勝なら宮地が1位だが)」の状況に、燃えないはずがないのだ。

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 さて、競技棟1階のロビーで、岡崎恭裕と渡邉優美が話し込んでいた。岡崎がソファーに腰かけ、渡邉は床に膝をつくかたちで、岡崎をやや見上げる態勢になっている。岡崎は手をボートに見立てて、真剣な顔つきで渡邉に言葉を投げていく。渡邉は、はい、はい、とうなづきながら、岡崎の言葉に耳を傾ける。明らかに「SGウイナーから後輩へのアドバイス」の場面である。それも、おそらくは操縦に関することだろう。もう、間違いない。必ず渡邉優美は強くなる! この舞台でトップクラスの男子から直接指導を受けたことが、血肉にならないはずがないのだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)