BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――粛々、淡々の意味

 

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 まず、特別選抜A戦。齊藤仁が血相を変えて、「2着じゃ乗れないですか?」と尋ねてきた。表情には大きな大きな悔恨が浮かぶ。1マークで見事な差しを決めて先頭に立ち、1着が完全に見えていた。ところが2周1マークでうねりに乗り、バタつき流れた間に辻栄蔵に差された。齊藤は、チャレンジカップ勝負駆けを戦っていた。1着なら、届く可能性があった。そう、1着なら! まさかの逆転を喫し、勝利だけでなくチャレンジカップも手から零れ落ちた。あまりにも無念の大きい2周1マークだったのだ。

 仁さん、大村で会えないのは残念。しかし、住之江では会えるはずだ。住之江でもっともっと己を変えろ!

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 芝田浩治もまた、チャレンジカップ勝負駆けだった。3着以上で自力当確。しかし、まさかそんなことを考えて走ってはいない。初めてのSG優勝戦を全力で勝ちにいった。それがかなわず、3着以内にも残れなかった。レース後の悔恨は、ただただ敗れたことにあったはずだ。

 そのレース後は、淡々としているようにも見えたが、心中は決して淡々というわけにはいかなかっただろう。デビュー26年目で初めて走った舞台に思うところはたくさんあったはずだ。モーター返納の間も表情を大きく変えることはなかったが、胸には何者かがうごめいていたと思う。

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 坪井康晴の淡々としているように見えた。菊地孝平や笠原亮と会話を交わすときには、首を傾げたり、苦笑いが浮かんだりはしていたけれども、激しい悔しがり方は見せていない。内をするすると伸びた1周目バック、2マーク先マイの手があったはずだが、先に池田浩二に飛び込まれている。また、2周1マークでも最内に陣取っていたから、一か八かのアタックもありえたかもしれない。そうした局面局面を振り返れば、首も傾ぐし、悔しさが苦笑いに変わる。6号艇だから仕方ない、という発想など浮かぶことはない。

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 2番手3番手争いの軸となっていた白井英治、松井繁、池田浩二は、それぞれにレースを振り返り合っている。カポック脱ぎ場に同時到着した白井と松井は、装備をほどきながら語り合う。松井と池田は、松井がメダル授与式に向かう前に顔を合わせて、1周2マークのあたりの話などをしていた。これが、いずれも笑顔。時に苦笑いも混じってはいたが、かなり明るい感想戦なのであった。それぞれに勝てなかった悔恨を抱えながらも、競り合いの場面については平らかな心持で和やかに振り返る。何度も何度もこの経験をしてきた強者らしい光景に思えた。

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 優勝した瓜生正義は、彼らしいというのか、喜びをひたすら爆発させてみせるようなところはなかった。穏やかな笑みを浮かべ、福岡勢らの祝福に応える様子には、ともに戦った5人への敬意にも見えていた。

 ただ、実際はさまざまな思いがよぎったと思う。昨日の準優では緊張していたという瓜生は、今日も同様だったと思う。もちろん優勝戦1号艇は、プレッシャーを感じて当たり前。それに、久しぶりのSG優勝戦1号艇とか、地元とか、いろんな要素が折り重なれば、さしもの瓜生でも重圧を感じる。もしかしたら、しばらくSGを勝てなかったこととか、昨年グランプリを逃すなど不調にさいなまれたこと、などもそこに加わっていたか。

 僕は今日、地上波放送に解説として出演させていただいたので、レース直後に行なわれたインタビューを直接聞くことができている。ご覧いただいた方なら気づかれたかもしれないが、そこでの瓜生の第一声は明らかに上ずっていた。まずは安堵の思いが浮かんだからだろうと思うが、しかしそれ以上の思い入れもこもっているように聞こえた。まさに万感の優勝。単なる8冠目だったとは思えないのだ。

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 粛々としているように見えて、きっと瓜生は感動していた。それを味わったことで、なんだか偉そうな物言いになるし、瓜生に使う言葉としては適当ではなくて失礼にあたるかもしれないけど、瓜生はさらに一皮むけるのではないかという気がする。だとするなら、今年のグランプリが本当に楽しみだ。黄金のヘルメットをかぶったとき、瓜生がどんな表情を作るのか、それが見てみたい。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)