まずは、何はともあれ、篠崎元志に敬意をこめて、お疲れ様でしたと言いたい。上からものを言える立場でもないが、よく頑張った、とも。この2走、誰がなんと言おうと、元志は魂を見せてくれた。ナイスファイトだった。尊い2走だった。偉大だった! 結果、トライアル1stを勝ち抜けず、途中帰郷となってしまったが、そのガッツに拍手を送る。元志の「気持ち」は、確実にこのグランプリに艶やかな色彩を加えてくれた。それだけで元志は称えられていい。
史上初のグランプリ兄弟出場。これは業界をあげて盛り上げねばならぬビッグトピックである。それに対する責任感で、元志は負傷した瞬間から欠場したくないと考えたのかもしれない。もしそうだとしても、その責任感は偉大である。もうひとつ、この兄弟出場は、弟・仁志がついに初出場を果たしたことで実現したことである。元志はこれが4回目の出場だから、仁志がこの舞台に辿り着いた記念の大会が、今回だったということになる。二人にとっての大目標だった同時出場。その実現はいわば仁志に委ねられていた部分があったわけである。
というわけで、1stを突破した篠崎仁志は、明日からは兄の思いをビンビンに感じながら戦うことになる。兄の分まで頑張るというのは無理だと言いながら、「正直99%諦めていたので、一緒にグランプリを走れたのは奇跡的。だから、感謝したいと思っています。明日からは思いやプレッシャーをぜんぶ背負って戦います」とも語っている。これは、精神的な部分で、大きな大きな武器となるだろう。今日のレース後の、元志の憤怒の表情を仁志も見ただろう。もちろん我々の目が届かぬ場所での、元志の気持ちや本音も知り尽くしているはずだ。僕は、何かを背負った者ほど強い、と強く信じている。明日からの仁志は、昨日今日よりさらに強い篠崎仁志になるはずだ。
トライアル1stは、やはり多くの意味で過酷だ! だからこそ、そこに我々の心を動かすものが生まれる。篠崎兄弟のバトルはもちろんそのひとつだし、それ以外の選手たちも熱いものを見せつけてくれた。
1stの2走をともに大敗してしまった魚谷智之の恐ろしいほどに尖った目つきよ! リフトから控室に戻るとき、ヘルメットの奥に見えたその瞳は、強烈な光を漂わせていた。自分に向かって直進してきたとしたら、絶対に道を開けるな、あの目を見たら。魚谷がどんな思いでこの舞台を戦ったか、いや、8年ぶりにここに帰ってくるまでの過程で何を思ったかまで、伝わってくるようなストロングアイだった。具体的にどうこうじゃなくて、まさに思いの強さ、深さが感じ取れるものだったのだ。
結果的に次点の白井英治も、レース後に控室へと向かう道すがら、水面のほうに視線を向けて、何かを睨みつけるような目つきになっている。もうひとつ着順が上だったら……という具体的な思いがあったかどうかは微妙ではあるが、白井が狙っていたのが3着ではなかったのは間違いない。前付けだって、勝利を狙っての前付けだったに決まってる。着替えを終えて、控室前にあるモニターを見上げ、リプレイに見入る白井は、いつまでも渋い表情をしていた。力が脱けているような感もあった。やはり1stで敗れることは彼らにとって屈辱である。たった2走で黄金のヘルメットを手に入れる権利を失うのは、残酷ですらある。それを全身で受け止めている白井の様子は、どこか痛々しくもあった。
最高に痛々しかったのは、平本真之である。ついに辿り着いたはずの夢舞台を、たった2走で降りなければならなくなった。昨日逃げ切れていれば、結果的には2nd行きである。賞金7位と、もっとも2ndに近い位置でここに来ながら、無念の落選。昨日はどこか呆然とした様子だった平本も、今日はさすがに悲痛な顔つきとなっていた。もし3走あれば、まだ巻き返しが利く得点だけに、1stの過酷さはさらに強く感じられる。初のグランプリでその痛みを思い切り味わった平本は、来年こそベスト6でという思いを強くして、明日から次の一歩を踏み出すことだろう。
山崎智也は、11R5着。とはいえ、なにしろ初戦1着である。無事故完走で当確、5着ならなおさら、と考えていた。ところが、11R終了後に2nd行き組の記者会見が行なわれ、そこには篠崎仁志と辻栄蔵しかあらわれなかった。20点を突破した二人だ。智也は来ないのかなあ、と思って会見場を出ると、ちょうど智也がそこにいて、「俺、待ちだって」と言うではないか。思わず、「ええっ、大丈夫でしょ。18点ですよ。当確でしょう」と返すと、智也は「も~う、誰を信じていいのかわからん!」と笑った。そして、「これでダメだったら、BOATBoyの取材は二度と受けん!」。な、な、な、なぬぅ! 慌てて智也が落ちるパターンを計算しようとするが、焦って足し算がまともにできない。そうこうするうちに智也はどこかに行ってしまい、うがぁぁぁぁ、12RはにわかにBOATBoyの運命を握る一戦になってもうたぁぁぁぁ。で、12Rが終わって、智也はもちろん2nd行き。ホッとしながら、会見場で会った智也に「これはもう、何があってもウチの取材は断われませんよ!」と迫ったら、「アハハハハッ! 優勝したらね~」とにこやかに去っていったのだった。なんだかんだで、智也もホッとしたことだろう。優勝したら、すぐ取材に飛んでいくぞ、智也!
1stから2ndに進んだ選手たちは、かように明るい表情を見せ、また安堵の雰囲気も漂わせていた。そして、井口佳典が会見で言ったように、「明日からが勝負」という思いに誰もが切り替えてもいるだろう。2nd初戦、1st組は外枠からの戦いとなるが、しかし2nd組も含めて、横一線のゴールデンヘルメット争いとなるのも確かなことである。2nd組にしても、1st組を迎え撃つなどという気持ちではなく、グランプリの栄冠を競い合うメンバーが決まったのだという程度の感覚のはずだ。
2nd組で雰囲気がいいのは、やっぱり坪井康晴。噂の15号機はやっぱりパワフルなのだ。「早くレースがしたいですね。みんなが合わせる前に」と笑っていたが、ようするに現時点で調整を合わせることができているわけだ。明日は気温がさらに上がると予報されており、また雨予報まで出ているが、あとは微調整でOKという感触もあるだろう。なにしろ、調整の手腕には定評のある坪井だから、天候が変わろうときっちり合わせてくるはずである。
石野貴之は、前検も含めて3日間の調整で、かなり上積みができたようだ。会見で話したコメントは、ほぼポジティブなものだったのだ。坪井の15号機とは逆に、上位6基ではやや劣勢かと思われた27号機だが、まずは戦える感触を手にはできていると思われる。
そのうえで、会見の最後に石野は「カメラマンの方たちに、明日の午後から撮影をご遠慮いただくようお願いしてもらえますか」と頭を下げた。集中したいので、気をそらされるかもしれないものを視界には入れたくない、ということだ。これ、チャレンジカップの優勝戦でもあったことだ。つまり、石野は優勝モードに入った! 石野は、もしかしたらメディアから反感を買うかもしれないということを覚悟してそれを言ったのだから、我々もそれを尊重する。また、レース後などは大丈夫と石野も言ってくれたので、ここから石野の写真がなくなるというわけではない。これでさらに石野の凛々しすぎる姿が見られるのなら、それで十分。その様子を、しっかりお伝えしていくことにしよう。やはり石野貴之の戦いぶりは、魅力があふれまくっているのだ!(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)