BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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GPファイナル 私的回顧

最強のいい人。

 

12Rグランプリ優勝戦

①瓜生正義(福岡)08

⑤松井 繁(大阪)21

②菊地孝平(静岡)08

③桐生順平(埼玉)17

④石野貴之(大阪)21

⑥辻 栄蔵(広島)17

 

 獲るべき人、獲らなければいけない人、そして獲ってほしい人が賞金王を獲った。おめでとう瓜生!

 当然のことながら、今年のグランプリも穏やかなレースにはならなかった。待機行動で松井が激しく動いた。本気でインを獲りに行った。地元の意地、王者の意地にスタンド騒然。去年の茅原の前付けもそうだったが、1年24場の全レースでもっとも観衆がざわめくのはこの瞬間だ。ボートレースならではの醍醐味は、まだ失われてはいない。

 

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 イン水域を真っ直ぐ進む王者を見て、瓜生はレバーを握って体当たりするように枠番を主張した。同じように菊地も飛びついたが、間に合わずに3コースへ。勢い、3艇だけが深くなる。桐生がゆっくりと艇を流して、カドにも近い4コース。さらに、怖い石野が舳先を翻して逆方向に進む。不気味な辻もそれに連動する。またスタンド騒然。6選手の誰にでも同じほど勝機のありそうな152/3//46という変則隊形だ。

 瓜生、松井、菊地は12秒針が回る直前に100mを割った。

「うりゅう、男を見せろっ!!」

 誰かが泣きそうな声で叫んだ。

 

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 針が動いて石野、辻、桐生が発進する。内3艇の起こしは90m。見た目には絶体絶命のピンチに思えたが、そこからスーーッと瓜生、菊地が前に進んだ。外3艇は届きそうにない。菊地のスタートは当然として、インの瓜生はしっかり男を見せた。2艇だけが突出してスリットを通過した。後手を踏んだ2コース松井を菊地がじんわり絞める。瓜生と菊地の伸びはまったく一緒。1マークの手前ではインvs2コースのような態勢になり、瓜生が過不足のないインモンキーでターンマークを先取りした。

 

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 一方の菊地は……2コースのように差せればいいのだが、内の松井がわずかに舳先を入れている。かと言って、まくり差しを放つべきマイシロもない。早めに絞め込んだのが裏目に出たか。差しの選択を失った菊地は握りマイで勝負したが、瓜生には届かない。スタートは同体、足色も同じ……コースの差が、そのままふたりの明暗を分けた。

 ターンの出口で鮮やかに瓜生が抜け出し、それで第31代の賞金王がほぼ確定した。5コースから渾身のまくり差しを放った石野も、離れた2番手がやっとだった。「劣勢のパワーを立て直し、よくぞ2着に」という思いはあるが、多くを語るつもりはない。石野にとってもそんな賞賛は意味のない同情でしかないだろう。

 

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 ゴールを通過した直後、瓜生は右手を持ち上げた。派手なガッツポーズかと思いきや、スタンドに向かってひらひらと手を振った。ガッツポーズではなく、ひらひら。うん、なんと瓜生らしい。数分後のウイニングランでも、瓜生は満面の笑みでひらひら手を振り続けた。

「いい人、いい人、いい人」

 隣のファンが、微笑みながら繰り返す。見回せば、他のファンもほんわか微笑んでいる。先の福岡ダービーは地元だから当然として、この大阪でも瓜生を見つめる人々はみんなほんわかしていた。いい人。きっと、みんなそう思いながら、この勝利を祝福しているのだろう。白井英治がSGを獲ったときはロックコンサートのように騒然としたが、今日の観衆のほとんどは優しい瞳で微笑み続けていた。

「やっと獲れたねぇ、よかったねぇ」

 そんな瞳で。おそらく、私も同じ顔になっていたと思う。今だからこそ、だが。

 

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 若き天才、瓜生正義。

 20年ほど前、こんな評判とともに瓜生が記念戦線に躍り出たとき、私はそれを認めなかった。2期先輩の守田(当時は中川)俊介のほうが真の天才だと信じていた。忘れもしない1998年の常滑周年記念のファイナルで、天才と呼ばれるふたりは激突した。2号艇の俊介が5カドから豪快にまくりきり、そのはるか後方で瓜生は2着争いに汗していた。天才・俊介、22歳にして記念初制覇。が……

 バック中間、私が常滑のスタンドで万歳をした直後、「2号艇、フライング欠場!」のアナウンスが流れた。たったコンマ01の勇み足。大げさではなく、頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。「恵まれ」で優勝したのは、同じく22歳の瓜生だった。そのスタート、コンマ00!! この瞬間から、私は瓜生に嫉妬し逆恨みした。単なる「恵まれ」優勝じゃないかと心の中で毒づき、その後のふたりの明暗を呪った。あのとき、俊介が同じくコンマ00だったら、その後のふたりの活躍は入れ替わっていたはずだ。ずっと、そう思い続けてきた(今もまだ心のどこかでその思いを否定できないでいる)。

 大村チャレカの前々日、たまたま食事をともにした瓜生に、私はついにその思いを吐露した。

――瓜生さん、僕ね、実は瓜生さんに恨みつらみがあるんです!

 酒の勢いで言うと、瓜生は「え、え、なんでしょう」と真っ直ぐに私を見た。私は18年前の常滑を振り返り、

――あのとき、俊介が優勝してたら、ぜんっぜん違うことになってたと思うんです!

 逆恨み&言いがかりも甚だしいと自覚しながら、口が勝手に動いていた。そのときの瓜生の、真面目な返答が忘れられない。

「あ、でも、それは僕のせいじゃないですよね」

 あまりに真っ直ぐな答えに、私は吹き出してしまった。その通り! わかっていて愚痴ってしまったわけだが、怒りもせず呆れもせず真顔で答えた瓜生。逆恨みのわだかまりが、ほんわか氷解していくのを感じた。瓜生は続けた。

「あのレース、よく覚えてます。俊介さんがもの凄く出てて、5カドから内の艇を全部呑み込んでくれて、そのお陰で勝つことができました。僕はたまたまゼロゼロでしたけど、ほとんど舳先が一緒で僕も取られてもおかしくないくらいでした。ホントにたまたまです、たまたま勝てた」

 いい人。まさにそれが瓜生だ。謙虚にして誠実。その夜、瓜生は己を叱咤する言葉も口にした(もっぱら黒須田に向かって、だが)。

「多くの人に天才と呼ばれて、その言葉に甘えすぎてました。甘えて、努力をしないできた。自分は弱い、人間的に弱すぎます」

 そんな意味の言葉を何度も口にして、それからこう言ったのを覚えている。

「遅いかもしれないけれど、今になって、そういうことに気づけてよかった。そう思ってます。これから、もう少し強くなれるかも知れないし、強くなりたいです。やっと、少しだけ欲のようなものが出てきたような気がします」

 

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 あれからわずか1カ月と数日で、瓜生は艇界の頂点に立った。我々に話してくれた内面の変化がどれほど影響したかは分からないが、しっかりと結果に出してみせた。やはり、この男は未曾有の天才レーサーなのだろう。

 いい人。最強。あまりシンクロしそうにないふたつの“貌”を併せ持つ男。今日の一事が瓜生にどんな化学反応を与えるか、今後の興味は尽きない。これに満足してさらにいい人になるかもしれないし、さらに欲が湧いて最強者の王道を突っ走るのかもしれない。どこまで「いい人」と「最強」が共存するのか、その極限を垣間見てみたい。「瓜生はやっぱり強いねぇ」とか、ほんわか微笑みながら。

追記/『zaki』さん、コメントありがとうございます! まさかこのブログを読んでらっしゃるとも知らず、勝手に引用してしまいました。「次は賞金王ぜっ!!」、実現しましたね。おめでとうございます。たっぷり美味しい酒を呑んでくださいね。(TEXT/畠山、PHOTOS/シギー中尾)