BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――1号艇は1勝のみ、そして女子の健闘!

10R 歓喜のツケマイ
f:id:boatrace-g-report:20180923184308j:plain とにかく笑顔、笑顔であった。木下翔太のツケマイ一閃。足的には劣勢と見られていた木下が、鮮やかに決めた。ピットに凱旋したヒーローを出迎える面々も笑顔、笑顔。木下はすぐにボート洗浄の輪に加わっているが、その間にも次々と選手たちが祝福の声をかけていた。木下は笑顔で返している。
「上條さんのおかげですね」
 会見で木下はそう言っている。上條嘉嗣にプロペラのアドバイスをもらい、足はたしかに劣勢でも今日のようなレースができるようにはなった。その上條も、とにかく喜色満面で木下に話しかける。このレースには弟も出走し、優出を逃しているのだが、嘉嗣は木下のボート洗浄に加わって、笑顔で木下を称え続けた。

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 弟・暢嵩も悔しさを噛み締めつつ、木下を称えた。「俺のおかげや」。そう言って木下と笑い合う。展開的にはその通り。ヘコんだ2コースを暢嵩が叩き、まくりを狙った。しかしイン椎名豊がそれを許さず、暢嵩は落として差しにチェンジした。その瞬間に木下は握った。おそらく椎名には木下のまくりが見えていなかったはず。暢嵩があたかも囮になったかのように、木下のターンがハマった。

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 その大阪勢の様子を、椎名も笑顔で見つめていた。ボート洗浄中は、やはり落胆した様子がうかがえた。ヘルメットもなかなか脱がなかった。シールドに隠れている表情が、渋いものであったのは間違いない。しかし、あの展開の当事者たちが集まれば、笑って振り返るしかない。木下の一撃を称えるしかない。

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 2着は羽野直也だ。スタートでヘコみ、バックでは完全に不利な位置にいたが、2マークで捌いた。羽野は、バックで前の様子をうかがいつつ、あそこが開くのでは、と推測してそこに飛び込んだという。読みはズバリとハマり、羽野に優出をもたらした。戦ってきたステージの違い、踏んできた修羅場の違い、ということになるだろうか。やはりこの男、強い。
 ただ、羽野からは歓喜も安堵も決して見えなかった。控室に戻る足色は頼りなく、スリットで後手を踏んだこと、思ったような仕上がりにできなかったこと、1マークで何もできなかったことを悔いているようにすら見えた。優出できたことでなんとかノルマは果たせたが、羽野が目指すのはそこではないということだろう。それも含めて、やはりこの場では圧倒的な格上である。

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 竹井奈美は惜しかった! 2番手もあるかと思われたが、羽野に逆転を許してしまっている。うーん、悔しい。レース後はほとんど表情を崩さなかったけれども、ややうつむきがちの視線が、悔恨を物語っていたように思う。残念だったけど、ナイスファイトだったぞ。

11R 女子優出!

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 女子3人が固まって出場していた11R。ヤングダービー初の女子優出の期待が高まっていたわけだが、それを果たしたのは最年少の大山千広だ! 1マークでは3コースから果敢に握り、中村桃佳との2番手争いを制して、ヤングダービーの歴史に名を刻んだ。
 先輩たちに出迎えられた大山はもちろん笑顔があふれていたが、桃佳に声をかけられると、申し訳ないような顔も見せている。さらに小野生奈が合流して後輩を称えると、またまた同じような表情に。3人が2つしかない優勝戦のシートを目指して戦い、生き残ったのは1人。先輩たちは女子が優出した嬉しさとそれが自分ではなかった悔しさ、大山は優出した嬉しさと先輩たちへの気遣いが、それぞれない交ぜになっていたことだろう。
 足は日に日に良くなっている、と大山は言う。気づいてみればエース級の機力を誇ってきた選手たちは軒並み優出漏れとなり、だとするなら大山にも充分チャンスがあるはず! 明日はさらなる快挙を果たすべく、思い切りよく戦ってもらおう。頑張れ!

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 勝ったのは関浩哉。この準優は22歳と23歳という若さあふれるワンツー決着となったわけだ。前のレースで悔しい思いをした椎名も、嬉しそうに関を出迎える。GⅠ初出場の後輩がいきなり優出を果たしたことは、周囲の心をも躍らせるものになるのだ。
 会見の関は、まず初々しかった。テーブルの上に置かれたマイクを取ろうとし、しかし本当に取っていいものかと迷ったのか手を引っ込め、結局肉声のみで質問に答えている。こういう席は初めてでしょうからね(笑)。しかし、回答自体はしっかりとしていて、「ターン回り、舟の向きと押しですね、そこがよくて全体的に乗りやすい。直線は普通かな」などとハキハキ、力のこもった声で受け答えしていた。うん、実に爽やかである。
 優勝戦もきっと、確然とレースに臨めるだろうな。関を見ていてそんな気にもなったわけだが、12R後、少々事態が変わることになる。

12R 颯仁が……

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 オッズが示していたように、仲谷颯仁が逃げ切って優勝戦1号艇、と想像していた方は圧倒的に多かっただろう。“本紙予想”では佐藤翼を本命にしている僕だって、自分の舟券が外れて仲谷1号艇というイメージがかなり強く脳内を占めていた。しかし、勝負はゲタを履くまでわからないとはよく言ったもの。仲谷が敗れた。そればかりか連にも絡めなかった。ピットにいた者たちも、選手であれ報道陣であれ、あまりにも予想外のことだったのだろう。仲谷が佐藤にまくられた瞬間、悲鳴のような声があがっている。
 仲谷自身、まさかという思いがあっただろう。ボート洗浄の間も表情はカタいし、控室へと戻る道中も同様。控室への通路の入口あたりにはカメラマンが集結しており、仲谷にも容赦なくレンズを向ける。その放列はさぞかしツラかったことだろう。もちろんカメラマンたちとて仕事である。大本命で敗れるツラさを、仲谷はそんな形でも味わってしまったわけだ。

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 優勝戦1号艇は関浩哉! まずは磯部誠だ。エンジン吊りに出てきていた関に「おい、1号艇だぞ。大丈夫か!」と大声で叫ぶ。ボート洗浄中には西川昌希もやってきて、「大丈夫か!」と大声。この悪ガキどもめ(笑)。関くんをイジるのはやめなさいってば。関は苦笑いを返すしかできないわけだが、しかしこれは関の緊張を和らげるものになるのではとも思った次第だ。というのは、12Rのリフトに向かいながら、関が頭を振る場面を見かけたからだ。手荒いようにも見えるが、変に気を遣われるよりは気楽だろう。磯部と西川にその狙いがあったかは知らないけど(笑)。しかし、関の苦笑には柔らかさがあったのも確かなのである。

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 1着は松尾充だ。佐藤翼がまくった展開をしっかりと突いた。「足は上位にいると思っている」と松尾。ならばあの展開は、松尾にとっておあつらえ向きだ。というか、畠山の前検横綱なんですけど。畠山、一銭も買ってない(笑)。レース後は淡々、会見でも淡々。というか、会見では声が小さめだったので、正直聞き取れないところもあった(笑)。松尾ツインズは、常に拓のほうが注目されてきた。拓は鳴り物入りでのデビューだったし、早々に優勝し、A級にも昇級した拓に対して、充はなかなか成績を伸ばせないでいた。今も拓はA1級、充はA2級だ。それがこの舞台で、ついに充にスポットが当たる。拓の後押しも受けながら、充は一世一代の勝負に臨むのだ。

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 2着は安河内将だ。6号艇の北野輝季が前付けもにおわせていたわけだが、安河内は来れば抵抗のつもりだったそうである。6コースに出るつもりは基本なく、内5艇が深くなった時の単騎ガマシを少しだけ考えていたくらいだった。その気合もあって北野は内に潜り込むことができずに6コース回りとなり、枠なり3対3の並びに。結果的に、安河内のその気持ちが、好展開をももたらしたことになる。
 気になるのは明日だ。今度は安河内自身が6号艇である。準優で「6コースはない」とレースに臨んだ男が、すんなり枠なりの6コースで納得するのかどうか。会見では「ゆっくり考えたい」と明言はしていないが、「前付けやピット離れも頭に入れて調整する」とも言っているように、進入のカギを握る存在になることは間違いない。ちなみに、安河内の師匠は峰竜太。峰は第1回ヤングダービーの優勝戦でフライングに散っている。師匠の仇を討てるかどうか、というテーマも安河内にはあるのである。

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 最後に、守屋美穂が惜しかった! バックは2番手争いも、2マークで逆転を狙って突っ込んできた仲谷颯仁と絡むかたちで後退してしまっている。考えてみれば、準優すべてのレースで、2着争いに女子が絡んでいるのだ。その健闘ぶりに拍手! 今節、「七人の女侍」は、確実にヤングダービーを華やかに盛り上げてくれた。素晴らしい!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)