後半の見どころだったのは、やはり松井繁か。初戦6着と崖っぷち度がさらに高まるなか迎えた10R。2号艇から差して1着だ。足的な優位もあったが、舳先が逃げた笠原亮に入ったあとは、気迫の走りで一歩も引くことなく、笠原をしりぞけた。スタートタイミングは気合のコンマ03! 勝負どころの松井はスタートを踏み込む!「グランプリに出るために、普段は我慢している(F休みなどでSGを棒に振るのを避けるため)」とたびたび語っている松井は、リミッターを外したときには艇界屈指のスタート野郎なのではないかと思う。レース後の松井は、達成感あふれる表情で出迎えた後輩たちと向き合っている。そこには紛れもなく、王者の風格があった。
ちなみに松井は、大急ぎで着替えて1便で帰りました。本日の1便帰宿者は9名。女子では日高逸子がこれで帰宿。菊地孝平、赤岩善生、前本泰和、中島孝平、湯川浩司、柳沢一、峰竜太の顔が1便に見えていました。
松井に捉えられた笠原亮は、さすがに顔をしかめていた。そこに、グランプリ当確だから2着で上々、みたいなものは微塵も見えない。そんな思考では、それこそグランプリには辿り着けないのだろう。ただただ勝ちたい。まして1号艇なら、すっきりと逃げたい。そんな思いがあふれ出して止まらないようだった。笠原に歩み寄ったのは、意外にも日高逸子。どうやら日高にペラのアドバイスを受けていたらしい。それもまた意外。あまり接点が思いつかないが、SGという場で相談する相手を選ぶ必要はない。一流が集う場だ、吸収できるものはなんだってすればいいのである。
それにしても、井口佳典はリズムが悪い。昨日のドリームは、後方で前が詰まった。というか、守田俊介がキャビって失速し、これを避けようとボートを右に振ったら、守田のボートが右に流れて接触していったんボートがストップ。これで6着に後退した。今日の10Rは、3番手を走りながら、競り合いになった石川真二に飛ばされて5着。いずれも相手が不良航法をとられているのだから、不運にも程がある。ピットに戻ってきた井口は、さすがに苦笑い。笑うしかない状況、である。これで闘志が萎える人ではないだけに、ゴンロクを並べていても軽視してはならないだろう。
女子の11Rでは、遠藤エミが表情をカタくしていた。それはそうだろう。3番手は安全圏かと思われたところを、大山千広に猛追されて最後は逆転されてしまったのだ。足的にいろいろあったとしても、遠藤が後輩に抜かれるシーンはちょっと想像していなかった。遠藤自身も、その屈辱は大きいはずだ。カポック脱ぎ場では、馬場貴也にアドバイスを求めている姿もあった。その顔つきは深刻で、なかなか見た記憶がない雰囲気でもあった。明日は1R1回乗り。朝から調整作業に励み、レース後も遅い時間帯まで懸命に陸での戦いと試運転を続けることだろう。
そうそう、遠藤がエンジン吊りを終えたボートを空いたスペースに移動したとき、岡崎恭裕が声をかけている。
「明日、雨だよ」
たしかに天気予報は今夜から雨だとか。それがどうしたのか、と思ったら、「そこ、濡れるよ」。ピットの真ん中あたりは棟の変わり目になっているというか、屋根と屋根の間にスペースがある場所がある。そこから雨が吹き込む可能性があるらしいのだ。そのあたりにボートを運んだ遠藤に、岡崎がいち早く察知して知らせたわけである。同じあたりにあった茅原悠紀のボートを、岡崎が別の場所に運んでもいた。岡崎という男は聡明で、また気の回りも早い。それはレース方面でも活かされることは多いだろうが、こうした場面でも発揮されるわけである。思わず感心させられました。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)