後続をぶっち切ってゴールを駆け抜けた大山千広がピットに凱旋してくる。
彼女を待ち受けるのは、福岡支部の先輩選手たち。ピットの最前列にいる日高逸子が大声で叫ぶ。
「01だよ! 01!」
取り陸に上がった大山千広は川野芽唯とハイタッチ。その後、強く抱き合って喜びを噛みしめていた。
若手選手のそばには、地元の先輩選手が付いて相談に乗ることが多い。今回の優出選手でいえば、遠藤エミには香川素子が付いていたし、松本晶恵は土屋千明と一緒にいた。
大山のそばにいたのは川野芽唯だ。初日から最終日まで、この2人が一緒にいる場面を何度も見た。初のレディースチャンピオンで、超抜モーターを引いた緊張感。それを川野が和らげていた。聞くところによると、前節の唐津ヴィーナスでも大山は川野の世話になっていたという。
「川野さんに優勝を見せたいなと思って走りました」
レース後の記者会見で大山は語った。自分のためだけでなく、人のためにという意識を背負うことができる人間は強くなる。
大山が選手になったときの目標は「女子ナンバーワン」。デビューからわずか4年、最年少記録で目標を達成してしまった。
しかも予選の5連勝はすべてのレースで歴代女王を撃破していくという凄まじい内容。さらに準優勝戦ではレジェンド日高逸子と、SGにもっとも近い女子レーサーの一人である小野生奈、福岡支部の二人の女王を完封してみせた。優勝戦も田口節子に加えて、冬の女王(クイクラ覇者)松本晶恵と遠藤エミを寄せ付けず、コンマ01のスタートタイミングで勝利。少年マンガのような胸アツの展開で、女子ナンバーワンの座に一気に駆け上がった。
選手としての目標を早々と達成してしまった大山はこれからどうするのか。じつは、すでに次の目標を見つけているようだ。
「(レディチャンを)獲ったらクラシックに行けると意識していました。自分で走れるようにならないとレベルアップしないので」
すでにSGは経験済だが、オールスターはファン投票による出場。必ずしも出場と実力がイコールではない。自力で権利を取ってSGへ行かないと、レベルアップすることはできないと、自分に言い聞かせている。
「まだSGは行って勉強するとしか考えていないです」
とは言うものの、ものすごいスピードで女子戦では成長したのだ。男子のトップクラスに交じって戦っていけば、さらなる成長は可能だろう。
「これからはSGで活躍できるようレベルアップしていきたいです」
8月末にはメモリアルの出場が決まっている。これで来年のクラシックも確定した。このまま賞金を積み重ねていけばグランプリシリーズにも出られるだろう。
23歳6か月、令和初の女王の伸びシロは無限大だ。
千広物語。第1章は完結した。しかし間もなく第2章の幕が開く。
大山千広の戦いはこれからだ!
【水神祭】
テレビの優勝インタビュー、記者会見、優勝選手表彰などを終え、9時30分ごろに大山はピットへ帰還。
令和初の女王を待っていた福岡支部の選手たちに胴上げされ、そのままの勢いで水面へドボン(黒須田編集長は『ホークス優勝おめでとうスタイル』よ名付けておりました)。
女王を投げ入れた後は、胴上げしていた選手たちも次々とダイブ(これ何人いるんだ!?)。華やかで賑やかな大会だった蒲郡レディチャンは、まさに賑やかなうちに幕を閉じた。
(TEXT姫園 PHOTO池上一摩)