＜９Ｒ＞
「平和島じゃなかったら、もっと得やったな」
逃げ切った吉川元浩に松井繁が笑いかける。そう、選考順位２位の吉川は、１着ゴールした瞬間に明日の準決勝戦の１号艇が確定した。すなわち、１回戦からオール１号艇。選考順位が枠番に絡んでくるので、上位で出場する選手にかなり有利なシステム。王者が言うのは、インが強くない平和島でも有利なのに、これがインが強いレース場だったらさらに有利だ、ということになる（来年は若松です）。その言葉に、吉川も快活に笑った。そういうシステムである以上、ＳＧを２つ獲ったことがここにつながったのだ。
最後に丸野一樹を逆転した磯部誠は、安堵の表情。結果的に、ヤングダービー選考上位組で勝ち残ったのは磯部だけということになった（それが決まった瞬間、ヤング勢に猛激励を受けていたとか）。別にそれを背負わずとも、決勝戦を目指す明日になるわけだが、同世代の選手たちの後押しは決して小さくないだろう。
逆転された丸野は、さすがに顔色がない。そうか、３着キープなら丸野がヤング最後の砦になっていたのか。レース後はやや元気がないようにも見えていただけに、１号艇が回ってくる明日に鬱憤を晴らしてもらいたい。
＜10Ｒ＞
赤岩善生のトーナメント連勝が６で途切れた。といっても枠番通りの２着で、準々決勝進出。連勝ストップ自体にこだわってはおらず、今日もまた力強い表情を見せている。レース後、ほかの選手に頭を下げて回っているが、その動きはいつも以上にキビキビとしているように見えた。
勝ったのは瓜生正義。１号艇なら必勝態勢だから、特に表情は変わらないレース後であった。それほど危ないシーンもなかったから、ノルマは果たした、というところであろう。レース後の動きも実に淡々としており、大きな感情の動きは見えなかった。
篠崎元志は、やはり悔しさを抱えたようだ。レース後、プロペラ調整室のモニターがリプレイを映し出すと、元志は入室して見入った。そのとき、競技本部から元志に召集のアナウンスがかかっている。ところが、元志はモニターに集中していて、それが耳に入らなかった様子。リプレイが終わってもその場を動かず、ようやく腰を上げると、整備室に向かうのだった。その後、元志を呼び出すアナウンスが再度かかった。元志は整備室から猛ダッシュ！ 最初のアナウンスのときには気づかないほど、自分の走りをしっかり振り返っておきたかったのだ。
＜11Ｒ＞
吉川元浩に「得やな」と声をかけていた松井繁は、「（自分は）外枠地獄じゃ」と今村豊に笑いながら吐き捨てて、展示に向かっている。外枠で１回戦を戦って３着だったから、準々決勝は外枠が決まっている。そこから２着、１着を獲ろうとするなら、それはかなり難しい。たしかに外枠地獄というのは言いえて妙かも。しかし王者は、地獄じゃと言って投げ出したりはしない。前付けの２コース！ スタート展示は３コース、本番ではさらにグリグリと獲りにいった格好だ。結果は無念も、外枠でも諦めることない王者の姿がそこにあった。まあ、外枠ばかりというのはグランプリで慣れてもいるわけですが（笑）。
３着がありそうな展開だった木下翔太は、露骨にガッカリ。エンジン吊りが終わると、ボートのカウルに右ひじをかけて、苦笑いとともに溜息をついた。この人も外枠、結果として６コースでも諦めていなかったわけだ。３着に手が届きかけたことも、悔しさに拍車をかける。残念！
地元のエース・濱野谷憲吾は、ここで敗退となった。敗れて時に笑顔を見せる（苦笑いの要素がかなり強いが）濱野谷も、レース後の表情は硬かった。やはり地元戦の責任感も強かったのだろうか。それでも、ＪＬＣ解説者の山口雅司さんと顔を合わせると（東京支部の大先輩だ）、「スタートがぜんぜん」とやはり苦笑い成分が強い笑いを見せている。あと２日、レースが何であれ、平和島をおおいに盛り上げてほしい。
＜12Ｒ＞
レースが終わると、永井彪也が弾むようにリフトに駆け付けている。長田頼宗が準決勝進出。地元の最後の砦が勝ち上がったことで、テンションを上げていた永井である。そんな出迎えに、長田もキリリと笑みを浮かべる。濱野谷が敗退した直後でもあっただけに、達成感は強かっただろう。選手代表が、東都の威信を背負うトーナメントとなった。
３着は田村隆信だが、３周１マークは危なかった。３番手確保と安全に回ろうとして、かえってキャビったのだ。そこに上平真二が迫って接触気味となるが、田村はなんとか着位保持。レース後、苦笑いの田村に上平が駆けつけて、直立不動から90度のお辞儀。詫びられた田村は大慌てで、謝意は不要であることを上平に伝えるのだった。田村としては自分の失敗もあったから、かえって恐縮したのだ。
勝ったのは毒島誠。ということで、準決勝も１号艇です。今日も12Ｒの１着で、速攻で勝利者インタビューに向かったため、仲間との絡みなども特になし。それでも、手早く着替えを終えた後にカポック着脱場で戦った相手を待ち構えて、礼を尽くしている。明日も12Ｒ１号艇。逃げ切れば最終日も……とはならないＢＢＣトーナメント。決勝戦の枠番はすべて抽選です！ もちろん、決勝で６枠になることになろうと、明日は昨日今日と同じように、しっかり逃げ切ることだけを考えるだろう。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
