本来であれば予選トップを決める1着だった。11Rの守屋美穂だ。しかし、ピットに戻ってきた守屋の表情は暗い。理由は1マーク手前で起こった高田ひかるの落水。高田のS後手でのぞいた守屋は内を締めにいったが、高田の舳先が抜け切らなかった。高田は内の塩崎桐加に激突するかたちで落水し、その原因が守屋にあるとして、守屋は不良航法をとられることとなった。減点10よりも、高田の落水が頭から離れなかったのだろう。守屋はエンジン吊りを終えると、カポックを着たまま医務室へと走って向かっている。
高田はレスキューから担架で運ばれており、途中帰郷となってしまった。足はかなり仕上がっていたと見えただけに、準優でその走りを見たかったが致し方ない。昨日の長嶋万記と同様、一日も早い快癒を願うばかりだ。
それにしても、ボーダー争いはなかなか熾烈であった。得点率6.00に数多くの選手が並んだのだ。その数、実に8人。11Rで3着の清水沙樹も6.00で予選を終えたが、その時点では準優行きがかなったかどうか、清水自身も確信を持てていないようだった。清水は結果、16位。予選突破を果たしている。
10R終了時点で19位にいたのは小芦るり華だ。3R1号艇2着で6.00となり、今日は長く結果を待ったことになる。11Rが終わっても、まだ19位。ただし、12Rに出走していた18位以内のメンバーで、結果次第で19位以下になる選手は不在となっていた。つまり、11R終了時点で、12Rで事故がない限り、予選落ちが決まってしまっていたのだ。それを小芦が把握していたかどうか。12R発売中に出発する2便で宿舎に戻っているが、もしかしたら覚悟はしていたかもしれない。結果的に小芦、海野ゆかり、川野芽唯が6.00ながら、予選突破を逃している。
10Rでは寺田千恵と香川素子の両ベテランが勝負駆けに失敗してしまっている。寺田は今日まさかのゴンロク。一気に順位を下げることとなってしまった。10Rは3号艇で1着勝負も及ばずで、レース後はさすがに疲れた表情を見せていた。
香川は3着なら6.00。ただし、これでは上位着順差で18位以内に入る可能性はなかった。実質2着勝負だったのだ。それでもレースでは、3番手の山下友貴をよく追いかけた。どんな認識だったのかはともかく、そこには執念が感じられたものだ。結果は4着で、6.00にも届かなかった。レース後はややカタい表情となっており、無念が伝わってきた。
12Rは、佐々木裕美が2着条件、出口舞有子が1着条件の勝負駆け。気合の入る一戦だったが、1マークでほぼ決着がついてしまった。佐々木は5着、出口は3着。出口が対岸ビジョンに映し出されたリプレイを、ボートリフトの柱をもたれるように抱え込みながら凝視していた。勝ち筋がなかったかどうか、探していたのだろうか。佐々木はちょっとせつない表情になっており、是が非でも予選突破を果たしたかったであろう、その思いが垣間見えたような気がした。
このレースは、内3艇の予選トップ争いの勝負駆けにもなっていた。勝った選手が予選トップの可能性大、という一戦だったのだ(田口節子だけが、2着の選手次第あるいは1着走破タイム次第だった)。そう考えると、遠藤エミの必殺3コースツケマイとインからこらえる小野生奈の鍔迫り合いは、大きな意味を持つものだったと同時に、名勝負であった。勝ったのは小野生奈。遠藤を前に出さずに耐え切って、先頭でゴールし予選トップ通過を確定させた。
ただ、池上カメラマンによると、それを知らされた小野は「マジ!?」と驚いていたという。こちらが「マジ!?」って感じなのだが(笑)、前のレースで事故があり、選手班長としては自分の得点率うんぬんを考える余裕がなかったのだろう。まさに無欲のトップ奪取。
遠藤は、あれで負けたら仕方ないということか、小野に頭を下げられてもサバサバとした様子であった。結果2位通過となったけれども、そもそもコース不問のオールラウンダー。今日のような攻撃力を発揮すれば、枠は関係なかろう。
もう一人の1号艇は、廣中智紗衣。11Rで1着ならトップ確定だったのだが……、バックでは先頭を走りながら、2マークで守屋に逆転されたかたち。それでも12Rの結果次第でトップの可能性は残されていたのだが、3位通過となった。11R終了後は、もちろん悔しさはあっただろうが、明るい表情も見えている。まずは準優をしっかり逃げ切りたいところだ。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)