BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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決勝戦 私的回顧

刮目して待つ。

12R決勝戦
①瓜生正義(福岡) 09
②濱野谷憲吾(東京)13
③丸野一樹(滋賀)   11
④白井英治(山口)   09
⑤峰 竜太(佐賀)   08
⑥遠藤エミ(滋賀)   12

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 蝶のように舞い、蜂のように差す!
 3コースの丸野がGP覇者たちの強打を掻い潜り、軽快かつ精緻な右フックで3代目のチャンピオンベルトを鷲掴みにした。30歳の若き新チャンプ、おめでとう!

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 スリット隊形はわずかな凹凸があるものの、コンマ10前後で呼吸が合ったほぼ横一線。私の視線は勝手にキーマンと見ていた4カド白井に釘付けだったが、期待したほどの伸びはない。今日はチルトを跳ねて伸び足を検分したはずで、最終的に「あまり伸びないから自在に動ける方向で行こう」とマイナスにセッティングしたのだろう。

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 白井の足が止まれば、内艇のパンチ力が増幅する。特に、カド受けで白井の伸びを警戒していた丸野にとっては嬉しい流れ。瓜生が1マークを先取りし、濱野谷が差しに構えた瞬間、丸野はたっぷりのマイシロを確保しながら若者らしいシャープなまくり差しで先頭に躍り出た。今節、相棒58号機の最大の特長である回り足=フットワークを100%活かしきった優勝と言っていいだろう。

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 丸野一樹がいきなり頭角を現したのは2019年、わずか2年前だ。それまでは、巷によくいる「まあまあ走れる若手レーサー」のひとりでしかなかった(あくまで私の所見だが)。2016年にデビュー4年7カ月で初優勝~翌2017年に2度目の優勝~翌2018年は優勝ゼロ、と牛歩のごとく地味に地道に走り続けていた男が、その翌年の4月~10月の半年あまりの間にGIびわこ大賞を含めて優勝6回! それまで109を引っ張ってきた大上卓人、島村隆幸、そして永井彪也などに、一気に追いつき追い越す1年だった。

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「丸野って、急に強くなりましたね」
「確かに。やっぱ、守田俊キチという強い強い大先輩の背中を見てきたからだろ」
「いやいや、馬場先輩の背中でしょ?」
 酒の席で黒須田とそんな会話を交わすことも多くなったのだが(笑)、この若武者の勢いは止まらない。去年もからつGIを含む6優勝。今年に至っては、同じく6優勝のうち尼崎GI、若松GI、そして今日のプレミアムGIをも掻っさらってしまった。
 もはや、私と黒須田は「強くなった」などと言うことはなくなった。今節、何度も口にした言葉は「強い」だ。1マークの攻防から道中の立ち回りから、我々が気づくようなミスターンはほぼひとつもなかった。特に展開を読み違いやすい1周2マークでの位置取り、初動、入射角などは見事なもので、老獪の域さえ感じることもままあった。

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「丸野、強いな」
「ホント、マジ強い」
 そんなやり取りを何度も重ねながら、我々はともに丸野のアタマ舟券を1枚も買わずに選手責任の沈没と相成ったわけだ。黒須田はともかく、私は「強い強い」と言いつつ、まだまだ大一番の丸野を見くびっているのだな。そもそも、「強い」という形容詞を使うこと自体が見くびっている証拠なのかも知れない。
 10日後、この30歳の若者は最年少のGP戦士として住之江に現れる。そして、今日の圧勝劇を目の当たりにしても、私はまだまだGPトライアルでは通用しない、と心のどこかで思っている。そんな私に、丸野がどんなしっぺ返しをプレゼントしてくれるのか。眉に唾を付けつつ、その瞬間を楽しみに待つとしよう。(photos/シギー中尾、text/畠山)