BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――つらすぎる……しかし瓜生を称えよ!

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 これがグランプリ優勝戦が終わった直後のピットだろうか。
 ほとんど音が聞こえない。歓声もあがらない。誰もがどう振舞っていいのか、わからないでいた。いや、そうではない。どうとも振舞いようがなかったのだ。
 勝者を出迎えに駆け付けた福岡勢も、無言でヒーローの帰還を待つ。本来なら、バンザイの嵐、拍手の嵐のはずが、そのアクションはまるで起こらない。そのなかには、あの西山貴浩がいたのだ。だが、西山でさえ、はしゃぎようがないほど、そこには重苦しい空気が流れていた。
 もういちど書く。これがグランプリ優勝戦が終わったばかりのピットなのだろうか。
 僕は、ある意味、ものすごいものを見ていたのかもしれない。誰が勝つにしろ、歓喜に沸き上がり、悔恨が渦巻き、最高峰の戦いの華々しさと厳しさが美しく同居するのがこれまで見てきたグランプリのピットだった。その度合いが低くなったのではない。ゼロになったのだ。こんな終わり方があっていいのか……。

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 瓜生正義の優勝は素晴らしいものだった。事故などなくても、まくり切っていたはずだ。見事だった。しかし、ピットに戻った瓜生も歓喜をあらわせない。間違いなく、自分が勝ったのだという興奮はあったはずなのだ。それでも、周回中に目にした4艇の事故は、瓜生の心を複雑にした。絶対的に喜ぶべき勝ち方だったにもかかわらず、それを素直に表現できない状況。空気。ピットに戻った時点では笑顔もなかった。

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 事故を回避して準Vとなった白井英治の場合は、さらに複雑さが強いだろう。まず敗れた悔恨。乗り心地を捨ててでも足にこだわった調整をし、決意がこもりまくった前付けに動き、しかし勝てなかったのだ。全力を尽くした、いや、そんな言葉でも足りないほど勝ちたいと欲して勝てなかった。その悔しさはとてつもなく大きい。そのうえで、事故レースになり、3連単不成立という想像もしなかった事態が起こっていたのだ。白井の表情は、やるせなかったとしか言いようがない。報道陣の質問に応えてコメントを出していたが、おそらく正確にどう言っていいかわからなかっただろう。

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 その後、歓声があがった瞬間があった。瓜生のウィナー写真の撮影が始まったときだ。カメラマンたちの後ろから、西山貴浩を中心に拍手が起こり、瓜生さんおめでとうの声が飛んで、ほんの少しだけ祝祭の空気が漂った。それは、見ていた僕にとっても救いだった。祝福が贈られないウィナー、それもグランプリ覇者なんて、そんなことはあってはならない。もしかしたら西山たちは、瓜生に笑顔を作らせようと気配りしたのかもしれない。

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 ピットのあの空気のなかでは、どうしたって瓜生を全面的に称える雰囲気にならなかったのは致し方ない。だが、我々はひたすら瓜生を称えるべきなのだ! あの峰竜太をまくり切った、見事な勝利だったではないか。白井の前付けに抵抗して意地を見せ、スタートを決めて、全速でまくる。文句なしのグランプリウィナーである。だから、第36回グランプリはどうしたって事故のあったレースと記憶されてしまうけれども、同時に素晴らしいビッグウィンを手にした瓜生正義をしっかり記憶しておきたい。瓜生、おめでとう!

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 事故にあった4人は、まず身体は大きな問題はなさそうである。全員が着替えを終えると早足でモーター返納に向かい、報道陣の質問に応えている。毒島誠は明るく振舞いながら、彼らしい好青年ぶりを発揮。もしかしたら重苦しい空気に対して配慮したかも。それも毒島らしい。

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 平本真之は、モーター返納に全力疾走で向かっており、その元気そうな様子に安堵させられた。丸野一樹も元気そうではあったが、初の晴れ舞台がこんな結末になったことに落胆を感じているようだった。それでも口をついたのは「こんなレースになってすみませんでした」。丸野はむしろ巻き込まれたほうだったのだが、レースのメンバーとして責任感を滲ませていたのだ。この思いを晴らすには、来年もこの舞台に立たねばならない。常連にならねばならない。丸野にとっては、このレースがさらに意を強くするものになってほしい。

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 そして、峰竜太だ。左腕のあたりを押さえているのが気にはなったが、身体自体は元気。しかし、心は完全に元気を失っていた。数分話したのだが、何度「ご迷惑をおかけしました」と言っただろう。こちらが励まそうとしても、結局は「ご迷惑をおかけしました」となってしまう。たしかに、妨害失格をとられている峰が、ターンマークに接触し転覆したことが招いた多重事故だ。自分のせいで重大なことが起こってしまった、その責任を感じて当然ではある。これまで峰が落ち込んだり、泣いたりしたのを何度も見てきたが、こんな憔悴ぶりは初めて見た。それほどまでに、この事態は自身の心を痛めつけるものになったということだ。僕としては、これまでもさまざまな頓挫を味わい、紆余曲折を味わってきた峰が、この一件を経て来年、どんな走りを見せるかに注目したい。もちろん、さらに強くなった峰竜太となることを期待しながら、次に会える日を楽しみにしたい。

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 今となっては、もう遠い日の出来事のようにも思えてしまうが、シリーズの優勝は新田雄史である。これがまた、こちらも多重事故が起こってしまったレースだったため、やはりピットに戻ってきた新田の表情は複雑であった。池田浩二や磯部誠が拍手して出迎えてはいたが、新田自身の笑顔はどうしても控えめになってしまう。今年のW優勝戦はつらすぎる……。

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 もちろん、瓜生と同様、新田も見事であった。まくり差しで中島孝平を捉えての快勝で、事故の有無はまったく関係ない素晴らしい優勝である。こちらもまた、我々は素直に称えなければならない! おめでとう!

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 1号艇で敗れてしまった中島孝平は、素直に悔恨を見せていた。ターンマークを舐めるように回ったターンだっただけに、なぜ差されたかわからんといった風情で首を何度も捻っている。この痛恨は来年、もうひとつ上の舞台を目指すことで晴らしてほしい。

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 こちらも西山貴浩、篠崎元志、完走はしたが巻き込まれかけた上野真之介はいずれも身体は問題ないようだ。西山は「身体痛い!」を連発していたが、たしかに痛みはあっただろうが、本当は心のほうが痛いようにも見受けられた。ターンマーク接触で失速し、後続を巻き込むという峰と同じパターンだっただけに、実のところ責任を感じてつらさを味わっていたのだと思う。ドンマイ、西山。来年もグランプリの舞台で、今日の借りを返せ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)