BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

W優勝戦 私的回顧

ストロング・マザー!

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11R優勝戦
①松本晶恵(群馬)    05
②松尾夏海(香川)      10
③大橋栄里佳(福岡)   06
④薮内瑞希(岡山)       08
⑤堀之内紀代子(岡山)06
⑥高憧四季(大阪)      03

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 昨日の準優を無事に突破した時点で「晶恵のVで鉄板」と決め込んでいたが、やはり勝負は下駄を履くまでわからない。
 レースを作ったのは3コースのエリカ様だった。内の松尾がスリットでわずかに凹んだところ、その隙間を逃すことなく凄まじい全速のツケマイアタック! いやあ、マジ凄かった。デビュー18年目、どうして優勝が1回もないのか? と不思議に思うほどの早くて速い強ツケマイ。

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 この猛攻をモロに浴びた晶恵はギリギリで防ぎきったものの、反動で体がよろけた。その瞬間、わずかに凹んでいたはずの松尾がサイドの利いた小回りで最短距離をくるり差し抜け、大本命を軍門に下らせた。

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 松尾夏海、30歳。こちらはデビューから11年目の嬉しい嬉しい水神祭だ。苦節11年というか8年というか、8年間ほど4点以下のB級に甘んじていたが、1年半ほどの産休を挟んで一気に素質が開花! あれよあれよとA2~A1級へと飛翔し、ついには全国のファンの視線が集まるステージの頂点まで昇りつめた。

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 長嶋万記はじめ「子どもを産んで強くなるママレーサー」という例は少なくないのだが、これほど劇的に成績を上げた選手も珍しい。「母は強し」をまんま地で突き進む夏海ママが、来年はさらにどんだけ強くなるのか。来年2月の鳴門・地区選~桐生レディースオールスターという記念戦線でのさらなる飛躍を見届けるとしよう。

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 嗚呼、それにしてもの松本晶恵。勝った夏海ママには申し訳ないが、今シリーズは初日から今日の1マークまで、晶恵が圧倒的な主役だった。スタートもレースっぷりもピッカピカに輝いていて、マジで眩しいほどだった。ボートレースは文字通り水物だからして、主役のまま有終の美を飾ることはできなかったが、松本晶恵という女子レーサーの芯の強さを猛烈に再認識する6日間だった。F持ちでもシリーズ戦でも、腐らず降りずコンマゼロ台の全速力で駆け抜けた晶恵に贈るべき言葉は、これっきゃない。
――やはり、松本晶恵はシリーズ戦にいるべき女性ではなかった。
 書くまでもないことだが、来年こそは!

銀河クイーンの帰還

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12R優勝戦
①平高奈菜(香川)18
②田口節子(岡山)12
③渡邉優美(福岡)15
④遠藤エミ(滋賀)14
⑤守屋美穂(岡山)19
⑥平山智加(香川)19

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 田口節子が今節2度目のジカまくりでティアラをぶん獲った。
 最大の勝因は、スタート勝ちか。インの平高より半艇身近く突出し、そこに強力な行き足をブラスしてまくりきった印象だ。だが、それは“綺麗ごと”の勝因でしかない。男子レーサーも含めて、今日のあの程度の凹凸で2コースから絞めまくりを敢行する選手は稀有なのだから。

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 スリットを通過するや、すぐに平高に襲い掛かる獰猛さ。必死のパッチの抵抗を受けても、強引に力でねじ伏せようとする闘争心。大競りのリスクなんぞ省みず、心と身体が命ずるままに眼前(正確には真横)の敵を攻め倒しに行った精神力こそが、今日の最大の勝因だと私は思う。

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 そして、そういう心の持ち主だからこそ、長きに渡って女子レーサーのトップ級に君臨し続けている。改めて、この銀河女王の真の強さをとことん感じさせる優勝戦であり、4日間の戦いだった。今日の優勝で得た特別ボーナス=3月の大村クラシックでも、獰猛果敢なレースを見せてくれると信じたい。

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 接戦の末の2着は、遠藤エミ。3戦連続1号艇で敗れた悔しさを、今日は4カドから豪快な握りマイで晴らそうとした。おそらく、単なる悔しさだけではない、責任感のようなものもあったはずだ。

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 最後に優勝して、3日間の借りを返したい!
 そんな気迫がモーターと舟に乗り移ったか。他の選手には真似のできないような大きく速い放物線を描いたとんでもターンは、それでもわずかに勝者に届かなかった。彼女の心の中から、今節の4日間が消え去ることはないだろう。たとえ真に目指している目標が、もうひとつ上のステージだとしても。

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 さてさて、個人的なことを書かせてもらえば、まさかあのジカまくりを浴びた平高が3着に粘り込むとは……②-④-⑤⑥という舟券をそれなりに厚く買っていた私は、祈るように⑥平山の追撃を見ていた。結局は③優美にも競り負けての5着ではあったが、あの1マークのまくられ死に体から3着に飛び込んだ平高には驚くしかなかった。

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 スタンドから記者席に戻る途中、ふたりの若者が「取りましたか?」と声をかけてくれた。ひとり目は、私と同じ残念組。いや、私どころではない。②-④-③⑤⑥という悶絶舟券を買っていたのみならず、「②-④-③だけメチャクチャ厚く張ってたんです」と聞いては返す言葉もない。
「ここの場はターンマークをかなり振ってるから、普通はあんなジカまくりを喰ったら絶対に残せないんですよ」
 若者は、青ざめた顔でこう言った。私は全身全霊でこの若者を抱きしめたい気持ちに駆られた。
「でも、名勝負でしたね。いいレースでした」
 すぐにそう言葉を継いだ若者を、また抱きしめたくなった。ソッチの気はないけれど(笑)。

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 次に声をかけてくれた若者は、ちょいと目尻が下がっていた。「取りましたか?」という問いに首を振ると、「ああ、やっぱり」とつぶやいてからこう続けた。
「僕は運よく取れました。今日はなんかまくりを喰ってもインが残してたので、最後もそんなことがあるかなぁ、と」
 やはり、マスクの上に並ぶふたつの目尻が下がっている。こっちの青年はちょっと抱きしめる気にはなれなかったが(笑)、その嬉しそうな顔を見ているとなんだか凹んだ気持ちが救われるような気にもなる。

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「おめでとうさん、良いお年を」
「はい、良いお年を」
 ふたたび歩きはじめながら、2021年の最後の大一番が終わったんだな、と実感する。私とあの若者はトホホな気持ちを抱きながら年を越し、あの若者(と勝者の黒須田)はほっこり幸せな心持ちで年越しそばを啜るのだろう。こうして今年が終わり、1秒も置かずに次の年がやってくる。今日と同じように、舟券に泣き、舟券に笑う日々がやってくる。(photos/シギー中尾、text/畠山)