BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――愛知vs広島?

●10R

 痛恨である。1号艇・秦英悟、フライング。3月唐津周年、予選1位通過ながら準優敗退を喫した、その雪辱戦は、さらに手痛い思いを秦に与えることになってしまった。スタート直後からややざわついていたピットは、「返還①」がモニターに映った瞬間に大きな溜息に包まれている。
 F艇があると、全体がやや沈鬱な空気に支配されるのは仕方のないことだ。秦の周辺=大阪支部の面々も、秦にかける言葉がないといった様子で、それぞれが押し黙っている。秦はエンジンを外すとすぐに競技本部へと走ったが、その秦がモーターを整備室に運ぼうという松井繁に「すみません」と言い、松井が「ええよ」と返した、その言葉が聞こえただけだった。

 山口剛もコンマ01。1着という結果もそうだが、まずは残ったことに安堵しているようだった。ちなみに2着の柳沢一もコンマ01。薄皮一枚を隔てて天国と地獄が並んでいるのだから、ボートレースは過酷である。
 それにしても、山口のこのところの好調ぶりは実に頼もしい。常滑周年を獲って唐津に乗り込み、SG優出。「今年はここまでいい感じで来ているので、そろそろ“来る”んじゃないかと自分に期待しています」と会見での山口だ。そう言い切れるということは、足はともかくメンタルは確実に充実している。12年ぶりのSG制覇、おおいにありうると見たぞ。

 柳沢一は、とにかく複雑そうな表情だった。先頭を走っているF艇が抜けての2着は、文字通りの恵まれ。また、秦の心中を察するのなら、単純に喜べないというのが本音だろう。しかし優出は優出。これがこのグラチャンの真実だ。3年前の多摩川グラチャンでSG初制覇を果たした柳沢にとって、特別なレースであるに違いない。外枠からでも攻めるレースを期待しよう。

●11R

 フライングがあった後のレースだというのに、スロー勢はゼロ台! このクラスはやっぱり凄い、メンタルもスタート力も。
 勝ったのは上平真二。石野貴之にのぞかれたが、しっかりと押し戻して、先マイ逃走を決めた。あがってきた直後は、いつも通り淡々とした様子。先に優出を決めていた山口剛が拍手を送ったが、微笑みを向け返す程度であった。まあ、これが上平真二だ。
 ところが、控室に戻る途上にカメラマンが大量にレンズを向けて待ち構えているのを見ると、いきなり「ヤーーッ!」と声をあげて、左腕を掲げる。もちろん笑顔! 自分を見てくれる人がいると確信した途端に、いきなりサービス精神満開。これも今の上平真二ですね。

 2着は赤岩善生。18年チャレンジカップ以来のSG優出となった。決して歓喜をあらわすようなタイプではなく、男は黙って粛々と、というレース後ではあるが、やはり充実感は伝わってきた。前検では劣勢と感じ、整備を施して足を仕上げ、コースもスローと決め打って、目論見通りに優勝戦まで駒を進めた。整備の鬼としても、コースに厳しい選手としても、2着ではあるけれども、言うことなしの結果であろう。もちろん、これで満足するような男ではないのもまた事実。会見では雄弁に足色の良さや「明日はダッシュはないです」との決意を語っているが、あとはそれを結果に結びつけるべく、明日も力強い一日を送ることだろう。

●12R

 ここまで2つの準優がいずれも広島-愛知で決まっていたため、辻栄蔵が優出すれば、優勝戦が完全に広島vs愛知になるかも!? ということでピットの関係者周辺ではにわかに辻に注目が集まったのだが、残念無念。辻がそれを意識していたとは思わないが、後輩たちに続けなかったことはやはり悔しいことのようで、常に朗らかな辻にしては表情に冴えはなかった。

 この広島&愛知の優勝戦ピット独占に待ったをかけたのが、中野次郎である。16年前の唐津新鋭王座覇者が、唐津SGで優勝戦に戻ってきた。ピットにあがった中野は実に爽やかな微笑を浮かべており、優出を果たして気分が上がっている様子が見えたが、それ以上に嬉しそうだったのが原田幸哉。今節、わりと頻繁にふたりの絡みを目撃していたのだが、愛弟子の柳沢が次郎と同期ということが大きいだろうか。そして、同期揃っての優出となった柳沢ももちろん、中野を祝福した。4号艇と5号艇、外枠に並ぶことになったわけだが、SGファイナルをともに戦える喜びは大きいはずだ。

 勝ったのは池田浩二だ。これで優勝戦もポールポジション。SG優勝は13年グランプリが最後で、意外にも9年近くも間隔があいている。会見では「10年はあけたいね」とおどけて報道陣を笑わせたが、もちろんこんなにあいたのは本人としては不本意だっただろうし、SGを勝てなかった期間にピリオドを打ちたいのは当然だ。会見でのコメントで意外に思えたのは、「エンジンはいい」と言ったことだ。それにしては今節も泣きコメントが多いわけだが、ようするに「自分の理想の仕上がりにはならない」ということであり、つまり池田自身のなかの合格点のハードルが高いということなのだと思う。決して「エンジンが出ていないから不満を述べている」のではなく、「エンジンはいいけど、自分が求めている仕上がりにならない」というだけのこと。ならば明日、うまく仕上げられれば死角は限りなく少なくなるのだし、そうでなくても断然の予選トップ、逃げ切る算段はついているはずだ。前付け必至の赤岩が6号艇、それにしても「深くなるでしょうね、当然。これは仕方ない」と腹は据わっている。SG初Vとなったグラチャンが、10V目の区切りとなる可能性は高いのかなと、キリッと引き締まった凛々しい表情を見て思った次第である。明日も理想の仕上がりに到達させるため、朝から懸命に動く池田を見ることになりそうだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)