BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――イジられる

 終盤の時間帯、整備室を覗き込んだら本体を割る作業をしているのが目に入った。ただ、本体以外は柱の死角になっていて、誰が整備をしているのかがわからない。なんとか確認しようと身を乗り出したりよじったりしていたら、別の場所から森高一真がやって来た。
「おぅ、クロちゃん。相変わらず暑苦しい顔しとるのお!」
 暑苦しいのは顔じゃなくて身体では? それは昔から変わらんわー。などと軽口連発。ようするにこちらをイジり倒そうというのである。その後も、喫煙所から「おぅ、クロちゃん!」と呼ばれたので歩み寄ると、「なにをウロチョロしとるんや!」だの、「なんや、その身体は。あと5年で死んでしまうで!」だの、盛んにイジってくる。隣で永井彪也がニッコニコで笑っていた。まったくもう……。あ、おかげで整備していたのが誰かわからずじまいじゃないかっ! とまあ、なんだかんだで楽しいひと時なので、森高にはもっともっとSGに来てもらわなければ困るのである! ほんと、今年一発目のSGがオーシャンって……。

 そうそう、今日は遅くまで平本真之が試運転を行なっていた。前半のエンスト失格で「負傷」コールもあったので心配していたのだが、どうやら大丈夫そうで、明日の出走表にも名前が載っている。今日はポイントを積み重ねられなかったので、明日はなんとか巻き返したいところ。
 で、平本がボートをあげたとき、周囲に選手がほとんどおらず、森高がエンジン吊りに駆け付けている。さらに、やはり遅くまで試運転をしていて、このときは係留所で回転調整をしていた西山貴浩も遅れてやって来た。3人でテキパキとモーターを外して架台に乗せ、平本がそれを整備室に運ぼうとすると、西山が「僕が持ってきますよ」と架台を受け取った。そこで森高が叫ぶ。「行けっ! 乗れっ!」。何のことかと思ったら、平本には着替えに行け、西山にはボートに乗れと言って、架台を奪い取ったのである。いちおう森高がいちばん先輩だから、平本も西山も恐縮しているわけだが、森高はもういちど「行けっ! 乗れっ!」。森高は何食わぬ顔で架台を整備室に運び始めたのだった。なんだかんだ言いつつも、この男は優しいのである。

 なお、森高は西山のことを「相棒」と呼んでおり、入りの際もお揃いのじゃがりこリュックで登場するように仲がいいわけだが、西山は「しょうがないからなってあげたんですよ」だそうです(笑)。西山が憎まれ口を叩くということは、本当に仲良しの相棒なんですな。

 今日は、実はその森高もレース後に試運転を行なっていて、2日間走った感触をもとに、さらに調整を進める選手は多かった。柳沢一もその一人。2R1回乗りだったのだが、レース後すぐに試運転用の艇番を装着して、調整と試運転を行なっている。昨日が4着で、今日が5着。レースを見ているとどうにも厳しい足色のようである。パワーアップは必須ということで、懸命な試運転。柳沢といえば、師匠の原田幸哉に寄り添う場面を多く見るわけだが、もちろんこうして自分の調整も抜かりなく、びっしりと行なっているわけである。まあ、その時に原田がそばにいるのはあんまり見ないんだけど(笑)。ようするに、柳沢の調整能力を原田も大信頼しているということであって、ならば今日の調整と試運転がどう明日につながっていくかは見ものと言えよう。

 深谷知博も懸命な調整が続く。今日の8Rは「ピストン2 ピストンリング3 シリンダケース」という“ほぼセット交換”という珍しい整備を施しての登場。しかしいったんは3番手を獲り切ったように見えたものが、篠崎仁志に逆転を許すという、苦しいレースとなってしまった。ちょうど2週間前に甲子園で八面六臂の活躍を見せていた深谷が、今回は苦戦気味。8R出走後はボートをあげているものの、プロペラ調整室にこもっての作業を続けているのだった。明日は一日早い勝負駆けとなりそうなだけに、どうしても積み上げがほしいところだ。

 さて、畠山が狙い続ける2号機=椎名豊。10Rは4カドからいい伸びを見せたが、攻め切れず。前本泰和の逃げ切りを許している。ピットに戻ると、対戦相手の先輩たちに頭を下げて回りつつ、エンジン吊り後にはやや疲れた表情を見せていた。思うように攻め込めなかったこの2日間(イン逃げはあったが)、成績は決して悪くないのだが、やはり消化不良の思いもあるだろう。さらに伸びに磨きをかけて、明日こそ気持ちのいい一撃を決めたいところだ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)